ぶるんねん文庫

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　イトトンボ、だと思います。

　細い体が金青緑色で、

　ジーっと、枯れた雑草に

　止まってた。写真を撮ったら、

　「何すんねん」って、

　怒って飛んでった・・・

　と、思う。二度と来ないから。

　トンボと言えど肖像権はある

　・・・の、かなぁ


　　　　Ｔｈｅ　Ｓｏｎｇ　ｏｆ　Ｗｉｎｄ　（２４９）

　自由国境地帯の、険しい山岳地帯に、ふと現れる、

なだらかな窪地に、朽ちかけた古社があった。

　テッセリム小神殿。位置的には、サフィールより南である。

　しかし、四方を、険しい山々に遮られ、高度も高い。

　気候の厳しい、僅かな土地は、一旦は、開墾されたものの、

村は廃村となり、小神殿も、結局、放棄されて久しかった。

　だが、厄災に土地を失った、サフィール市民の一部が、

この廃村を、再開拓し始め、小神殿も、一部がまだ、

頑丈なまま残っていた、無事な箇所を、使用している。

　「ここは、若い者が、多く移ってきました。

　　だから、義勇隊の集合地に、都合が良かったのです。」

　　テッセリム神殿長、ウィリム・トゥモーロスは、バルツァード王を

前にしているとは思えぬ、気安さであった。

　ソルダムも、我が家に戻ったような、安堵を見せている。

　とはいえ、既に、次の気掛かりが生じている。

　シシィの行方だ。

　聖域での戦の疲れを、癒す間もなく、ソルダムとケルビン、

セヴィリスの三人は、姿を消した、シシィの後を追って、

北へ向かう、峻厳な山道へ、踏み込んだ。

　本来なら、女性の徒歩で、たった一日の距離を、騎馬で、

追いつけぬ筈は無い。しかし、険しい山道とはいえ、

近々の落石や、がけ崩れの形跡も見当たらぬのに、

シシィの行方は、杳として、知れぬままだった。

　ただ、シシィの波動が、消えた地点近くで、シドの陣から

連れ出されたロバだけが、見つかった。

　まるで、神隠しのようだった。

　「ファーゴか・・・」

　恐らく、シドの陣に入り込んだ占い師も、ファーゴに違いない。

ルテシア王宮内ですら、幾つもの顔を持っていた、奸物である。

　ソルダムは、テッセリムまで、必死に自重し続けた。

　闇雲に駆け出し、探し回りたい衝動を、抑えているのが、

誰の目にも、明らかであった。

　「ニグ・エウビュコスは、テッセリムをも、拠点にしていた

　　形跡がある。その証拠がこれだ。」

　ソルダムは、背に負っていた、宝の大剣を降ろして見せた。

　ウィリム神殿長が、革張りの箱を運び込んだ。

　中は絹張りで、大剣がぴったり納まる。

　「ガラノデルムにある筈の、この箱ごと、宝の大剣は、

　　ここ、テッセリム小神殿に、隠されていました。

　　王陛下が、義勇隊結成の情報を得て、来訪された時、

　　隠し場所の蓋の、石盤が、陛下の持っておられた、

　　『サフィールの涙』に反応して、真っ二つに割れたのです。

　　陛下のお話によると、この剣は、エウビュコス神殿長が、

　　陛下より、奪い取ったものだとか・・・

　　それも、遥か遠くの、ナタレンスで・・・

　　我々は、半信半疑ながら、エウビュコス神殿長を、神官達に、

　　密かに見張らせ、奇妙な符合点を、見つけ出したのです。」

　トゥモーロス神殿長は、神官の一人を招き寄せ、日付や時刻と、

ルテシアの軍隊の動き、さらに、ガラノデルム神殿での、

エウビュコス神殿長の動向を記した、書き物を示させた。

　「移動距離を考えると、この二人・・・ファーゴ参謀長と、

　　エウビュコス神殿長が、同一人物とは、考え難いのですが、

　　彼が、祈祷の為と称して、聖堂に籠ると、ルテシア軍は、

　　確かに、活発に動き出すのです。」

　小神殿と言っても、本来、広い聖堂も、有していたらしいが、

今は、屋根が朽ち落ち、見る影も無く、荒れている。

　この小部屋に、急拵えの祭壇を置き、時には、集会所としても

使われているらしい。ろくな調度もない代わりに、粗末な長椅子や、

テーブル代わりの板切れが、隅に片付けられている。　

　そこへ、引っ切り無しに、若者達が出入りしては、神殿長に

目礼だけして、何事かを相談したり、伝言を書き留めて、

壁に貼り付けて行ったりする。

　その内の一人が、つかつかと、近づいて言った。

　「サフィール新市長、ナウリス・ハズリック殿が、

　　お見えになりました。」

　ソルダムが、開け放たれた、扉のほうを見た。

　セヴィリスとケルビンも、顔を上げた。

　市長、と言われても、ピンと来ぬほど、若い男性が、

部屋に入ってきつつあった。

　そういえば、トゥモーロス神殿長も若い。

　ソルダムが、気負わずにすむのは、ここに集うものが、

皆、似通った年の、若者だからかも、知れなかった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く
　　
　ウィリム・トゥモーロス＆ナウリス・ハズリック。・・・ちょっと、命名に手こずりましたが、

まあまあ、かっこいい名前だと、思います。御気に召して頂けましたでしょうか？

　・・・誰のお気に召すって、多分、ご当人は、お分かりだと思いますが・・・

　トゥモーロスは、ギリシャ神話の、山の神様の名前です。ぴったりだと思って・・・

　　では、また次回。今日も、お越し下さって、ありがとうございました。