ぶるんねん文庫

　悪魔は去った。帰って来なくていいよと、全てのパートに、万歳三唱で見送られて。

　社員仲間でも、変なうわさを流されて、困ってた人もいたとか。それも出鱈目を。

　なんで、男の癖に、そう言う女性週刊誌的話題ばかり、好きなんだろうね。


　忙しいのは、相変わらず。時間に厳しいのも、相変わらず。

　一番困るのは、別部署に応援に借り出された時、お客様にお問い合わせをされること。

　昔のデパートの店員は、殆どが、ばっちり研修を受けた正社員だったから、

　誰に物を尋ねても、きちんと対処できたものだが、イナカのスーパーのオバちゃんは、

　パートタイマーに決まってる。自分の持ち場の事すら、わかって無いのに、

　応援に行った先の事が、分かるわけ無い。

　第一、パン屋は、いかにも「食べ物作ってます！！」的な、独特の装束をさせられている。

　平たく言うと、コックさんスタイルなのだ。

　にもかかわらず、「ペットボトル２ℓのお茶、６本入りの箱を下さい。」と、いわれる。

　売り場に６本なければ、仕方が無いが、明らかに１０本以上並んでいる。

　それでも、「箱で」欲しいと言われる。進物ではない。ただ、「箱ごと」欲しいと言うわけ。

　仕方が無いから、バックヤードに駆け込む。担当者がいなければ、自分で在庫を探し回る。

　やっと見つけて、１２ｋｇ担いで運んで、お渡しして、よくよく考える。

　この格好見て、飲料物を問い合わせて、ストレートに通じると思う人が、いるのだろうか、と。

　従業員には違いないが、「ちょっと違うかも」と、考えないのか。

　水産、精肉の人は、全身白でゴム長靴。お惣菜担当は、ピンクの三角巾にピンクのエプロン。

　そう言う人が、ジュースやお菓子を陳列してたら、「応援の人」と、分かるだろうと思う。

　一般メーカーのパンも置いているし、売り場が接近しているから、

　「こっちの食パン、買うから、この向こうのパン、返しといてくれはる？」

　って言うのは、まだ分かる。なのに、幾らババアとは言え、女性を捕まえて、

　「兄ちゃん、イカの缶詰、どこや？」

　怒る前に、困る。・・・何だ、それ？・・・

　本当に、想像つかない物って、見つけられない。

　「味付けイカの缶詰」って、見つけてから、

　「そう言えば小さい時、おじいちゃんの家で食べた？」

　こう言うものが、存在した事を、思い出す始末。

　本当に担当外の事は、わからない。お願いだから、相手を見て言って欲しい。

　誰に訊けば、と言うなら、サービスカウンターへ行って欲しい。一番確かだ。

　そして、確実に欲しいものは、予約して欲しい。

　夕方、片付けの終わりがけに、いきなり作業場に乗り込んで来て、

　「次の食パン、何時に焼きあがります？」

　びっくりするよ。掃除中だよ？床、びしょびしょ。危ないから、売り場へ出て貰う。

　「本日の焼き立てパンは、終了いたしました。

　　後は、店頭陳列分だけでございます。」

　「なんでぇ！？『焼きたてパン』でしょ！？もう終わり？

　　せっかく『焼きたて』買いに来たのに！！」

　申し訳ないけど、日によって、なぜか、売れ行きにはムラがある。

　計画通りに売れない。残る事あり、品切れもあり。その日、食パンは売り切れていた。

　そして、パン屋と豆腐屋は、朝が早くて、夕方、早くに終わる。

　世界的常識だ。ホットケーキじゃないんだから、夕方に、無理を言ってはいけない。
　
　幾ら、冷凍生地を焼くだけとは言え、こねたり、丸めたり、形を作り、発酵させたりと、

　結構な時間が掛かる。予約されれば、時間を逆算して作業できるが、急には焼けない。

　そして、こう言う人に限って、往生際が悪い。

　「今、予約したら、閉店までに焼けますの？」

　どれだけ夜型なんだ？午後九時に、焼き立て食パンを、どうするんだ？

　でも、こう言う時は、ひたすら下手（したて）に出て、平謝りに謝るしかない。

　「ご無理を仰っては困ります。パートの契約時間外に、パンは焼けません。」

　などとは、口が裂けても言えない。この辺は、デパート仕込みだから、出来る。

　じゃあ、明日には、と言う事になり、サービスカウンターへ案内する。

　ああ、やれやれ、である。暫くすると、予約の連絡が来る。予約は、有り難い。

　陳列パンは、廃棄処分の確率が高い。予約は、確実に売り上げになるから、助かる。
　
　だから、声を大にして言いたい。

　どうしても欲しいものは、予約しましょう。

　アンパン一個でも、お取り置き致します！！

　受け取りに御来店されなければ、売り場に出します。ご一報下さい。

　５０個１００個のご予約を、チャラにされたら困るけど、

　「食パン１本（２斤分）、午後５時に、焼きたて熱々で。」なら、

　当日、「ごめん！！行けない！！」でも、構いませんから。

　本当！！お尋ねは、全てサービスカウンターへ！！いきなり現場は、困るんです！！