ぶるんねん文庫

　
　愚娘は、春休み中かけて、

　縫いぐるみを作ってたらしい。

　いつの間にか、かなり大きい、フエルト製の、

　にわとりの王様のような、ぬいぐるみが・・・

　部屋の真ん中に、いるではありませんか。

　燕尾服に、中世の貴族のような髪。

　小さい王冠をつけてる。

　可愛いから、ＵＰさせてと言ったら、

　「アニメキャラだし、良いストーリーじゃないから」

　だめだって。代わりに、撮ってくれたのが、

　　　これ　


　　　　Ｔｈｅ　Ｓｏｎｇ　ｏｆ　Ｗｉｎｄ　（１９３）

　「叔母様達、お願い！元に戻って！！

　　優しい綺麗な、お父様の妹達に、戻ってください！

　　どうか、お願い！！」

　見える大地は、砂利の粒の様な虫に、埋め尽くされ、

草木、石柱、人の足構わず登っては、さして威力も無い

小さな口で噛み付く。ただ、その数が凄まじい。

　意識を取り戻したが、まだ、乳母に支えられている、

イーヴェルや、重い男物の大剣を、両手で振るっている、

シシィのドレスの、長い裳裾は、既にズタズタだ。

　オリザ姫の足にも、三つ首犬の、槍の様な爪ある

四つ足にも、虫は、続々登ってくる。

　三つ首犬は、足掻いて虫を払っては、親玉の巨大虫に、

飛び掛ってゆく。オリザ姫は、その度に、振り落とされては、

またしても、三つ首犬に、駆け寄って行く。

　三つ首犬は、巨大虫と戦いながら、最低限、オリザ姫に、

注意を払っているらしい。その様子は、誰にも明白であった。

　巨大虫は、突然、背を伏せ、オリザ姫に噛み付こうとした。

　小虫共の噛む力は、たかの知れたものだが、

巨大虫の顎は、巨大で鋭い。セヴィリスは、素早く

前に立ちはだかり、火球を連発した。

　「殺すな！セヴィリス！！」

　ケルビンの声に、セヴィリスの気がそれた。

　パストリアの指揮官が、その隙を逃す筈が無い。

　ルテシア軍の反撃に兵を裂き、捕え手は減っている。

　指揮官は、自ら剣を抜き、オリザ姫に突進した。

　「ガウッ」

　三つ首犬の右の首が、ザッと、オリザ姫の背後

すれすれを掠めた。首が持ち上がった時、その口には、

牙に掛けられた、指揮官の姿があった。

　「リリア叔母様！！」

　オリザ姫の叫びより、一瞬早く、指揮官の断末魔が、

響き渡った。大量の血が、どぼどぼと、地面に降り注ぎ、

続いて、無残な屍が、落ちて来た。

　「きゃあーっ！！」

　イーヴェルが、魂切る悲鳴を上げ、再び気絶しかけた。

　さすがのシシィも、剣を取り落とし、顔を覆った。

　その屍を、虫の、固い殻の肢が、踏みにじった。

　三つ首犬の、中央の首が、オリザ姫を庇って、

低く下げられ、左右の首が、虫に対抗して、牙を鳴らした。

　虫が、鎌首をもたげた。オリザ姫を庇っていた、中央の首が、

思わず持ち上げられた。

　「ああーーーー！！」

　途端に、オリザ姫の体が、宙を舞った。

　纏っていた薄いショールが、牙に引っ掛ったのだ。

　ショールは裂け、オリザ姫は、夕闇の空に投げ出された。

　最後の残照の一欠片が、その胴体を覆う鎧を、

　煌めかせた。シシィは、反射的に叫んでいた。

　「ユリシアーーーッ！！！」

　キラキラと、鎧が、めくるめく光を放った。

　次の瞬間、鎧は、光そのものとなって、オリザ姫を包み、

あたかも、オリザ姫自身が、光を発している様だった。

　・・・いや、オリザ姫自身の光かも、知れなかった。

　光の一部は、ふわりと、オリザ姫の背を覆い、

双の翼となって、天使の様に、その姿を宙に留まらせた。

　それでも光は、絶える事なく、オリザ姫を包んでいる。

　月は無く、星もまだ輝かぬ。

　オリザ姫の周囲の光は、そこに留まらず、ディールヴァ城と、

その周囲全てを、あまねく照らした。

　全ての戦いが、止んでいた。

　唯一人、パストリアの副官が喚いた。

　「妖かしにひるむな！！今に、後続本隊が、救援に来る！」　

　しかし、ケルビンは、その楽観に、とどめを刺した。

　「本隊は来ぬ！東方で、ここと同じく、虫どもに襲われ、

　　足止めを食っている。後五日でも、無理だろう。」

　副官は、歯噛みした。それ以上、指図は出せなかった。

　柔らかな、淡い紫色の光に照らされ、人々の心は、

激しく猛々しい、残虐さを失っていた。

　代わりに、傷ついた仲間を助け、敵から距離を取り、

自身の生きる必要を思い出し、そのための行動を

起こし始めた。

　人ばかりではなく、巨大虫も、手下の子虫共も、

動きを止めていた。暫くすると、子虫共は、現れた時より、

静かに、石や砂の隙間から、地面の下に潜り込み、

巨大虫も、大人しく腹這い、やや小さくなったかに見えた。

　「叔母様達。庇ってくれてありがとう。

　　でも、もう私は、大丈夫。

　　強い仲間がいて、私をも、強くしてくれる。

　　今度は、私が、叔母様達を、庇って差し上げなくては

　　いけないの。もう、お苦しみにならないで。

　　元の姿に戻って下さい。そう望めば、戻れるのですから。」

　　　　　　　　　　　続く

　ユリシアは、本当は、シシィの歌声に反応する筈なんだけど、

　こんな乱戦状態のシーンで、呑気に歌ってるなんて、絶対、変だから、

　シャウトって事で・・・「妖女サイベルの呼び声」では、「シャウト（叫び）」が、

　魔力を持ってますもんね。いいよね？

　オリザ姫の真価、発動です。第三部も、終わりに近付きました。

　第三部の終わりに、ちょっとした、サプライズもあります。ではまた次回。

　　　　今日も、お越し下さって、ありがとうございました。