ぶるんねん文庫

　
　実は、本日９月２５日なり。

　だから、この紫苑は、今咲き初めし、

　初秋の花。

　朝夕、涼しくなり始め。

　「暑っつぅ～」と言う言葉が、

　次第に遠くなって行きます。

　この花の上の楓が、紅葉するのも、

　もうすぐです。

　　


　　　Ｔｈｅ　　Ｓｏｎｇ　　ｏｆ　　Ｗｉｎｄ　　（１２４）

　黄昏時の残照も薄れる頃、ジュノス老夫妻の家に、

到着した一行は、事態の急展開を知らされ、唖然となった。

　それは、ヘリアンタに残っていた、ジャドゥビス達も、

同じであった。ミランが行方不明、ドリスが負傷と言うのは、

痛手としては、かなり大きい。

　なにしろ、これから、世界一の巨大城郭に、乗り込もうと

している時に、現世の剣を振るう戦士を、三人も

欠いてしまったのだ。

　「たとえ、三人がいても、城門から侵入するのは、無理だろう。

　　太陽宮は、私とセヴィリス、アルフィーニで、

　　空中から、ファーゴを挑発して、おびき出す。

　　その前にジャドゥビスは、アルフィーニに、女宮の前庭に

　　送り込んでもらって、アルナス后の救出に当たってくれ。

　　セヴィリス、空中戦になるが、長時間の滞空は、できるか？」

　急に話を振られて、セヴィリスは、慌てて顔を上げた。

　セヴィリスは、ミリカの手に戻されていた、

マヤリス妃の手紙を、ひたすら精査していたのだ。

　「滞空・・・あまり得意じゃないけど、一応は・・・」

　ケルビンは、セヴィリスの集中を、欠かぬほうが

良いのに気付き、質問を打ち切った。どのみち明朝、

今は黒馬の姿で厩にいる、アルフィーニにも、

説明しなければならない。

　ジャドゥビスは、サーヴェンからの聞き取りで、太陽宮の

見取り図を、仕上げていた。

　大まかではあったが、女宮の位置もわかる。

　アルナス后救出は、ジャドゥビス一人の肩に掛かるのだ。

　「男一人、女宮に潜入できるだろうか・・・

　　オリザ姫が、女官姿で一緒に来てくれれば・・・」

　しかし、オリザ姫は、マヤリス妃の手紙の解読の方に、

気を取られていた。

　ミリカは、しつけに口うるさい、トニーが居らぬのを幸い、

夜更かしを決め込んで、オリザ姫と一緒に、

セヴィリスの手元を、覗き込んでいる。

　セヴィリスは、何度も皺ばんだ、手紙を慎重に広げ、

精神を集中して、念をかけた。

　と、インクの文字を打ち消すように、虹色に光る文字が

表れて来た。術師が使う、セルティ文字ではない、普通の綴りだ。

　「『敬愛するネレイド陛下。我が父アナトスは、

　　　この世で最後の、魔、法、両術を修めた

　　　最大の術師でありました。

　　　それ故、私と離宮全体に、掛けられた呪いは、

　　　法術師にしか解けぬ様、仕組まれております。

　　　魔術師の娘であり、我が身も魔術師である私は、

　　　自分自身で、これを解く事ができません。

　　　どうか、ファーゴに気取られる事無く、あなた様の手で、

　　　父の呪いを解いて頂きたく、この手紙を伯母上様に

　　　託します。』」

　オリザ姫が、すらすらと読み上げるので、どうせ魔法の字は、

読めぬ物と、ケルビンの脇にいたシシィは、驚いて

セヴィリスの方に近寄った。

　虹色の文字は、表向きの短い文面を、収めるだけの、

大きからぬ便箋一杯に、びっしり現れている。

　「『あなた様が、ファーゴに就いて、法術を学び始めたと知り、

　　　父は、ファーゴの狙いを、読み解きました。

　　　そしてそれは、決して、実現させてはならぬ物でした。

　　　ファーゴは、あなた様をクァランドールの皇帝に、

　　　自身は、更にそれを導く、法王になろうとしているのです。

　　　ただ、法王となるには、ファーゴの法術は、

　　　九峯聖堂の六神官の魔力を、上回ってはおりません。

　　　そこで、ファーゴは、私の魔力を背景に、九峯聖堂の

　　　長となることを目論んだのです。

　　　私の心身を危ぶんだ父は、己を犠牲にして、

　　　私を守ろうと考えました。

　　　すなわち、謀反を企んだとして、己を告発させたのです。

　　　父は死罪。私は終生幽閉となり、処刑前夜、

　　　離宮に、別れを告げに来た父は、私と離宮に強い呪いをかけ、

　　　以後、運命の動くまで、出られぬ事を覚悟するよう、

　　　申し置き、死に赴きました。』」

　いつしか、皆の後ろから、ケルビンが近づき、

驚愕の眼差しを見開いて、聞き入っていた。

　　　　　　　　　　続く

　　　　　　　　

　マヤリスの手紙、長いので、次回へ持ち越します。

　　　　今日も、お越し下さって、ありがとうございました。