ぶるんねん文庫

　

　トンビ舞い舞い　　　　　　　　　　　　　　　　娘のアルバムから・・・
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　孤独に一羽　　　　　　　　　　　　　　　　　　この春の娘の心境
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　仲間は皆敵　　　　　　　　　　　　　　　　　　そして、今の、私の心境
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　高処（たかみ）へ昇る　　　　　　　　　　　　　ま、忙しすぎて、
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　空行く風しか　　　　　　　　　　　　　　　　　孤独を噛み締めてる間なんか無いんですが・・・
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　信じられない　　　　　　　　　　　　　　


　　　Ｔｈｅ　　Ｓｏｎｇ　　ｏｆ　　Ｗｉｎｄ　　（１２２）

　ミランの行方は、杳として知れぬ。

　負傷し、森の小屋で、動けずにいたドリスは、

一夜明けて、セヴィリスとアルフィーニに助け出されたが、

森を、南へ抜けた所にある、離れ里のアーリー婆さんは、

昨夜も今朝も、そんな青年など、訪ねて来なかったと言う。

　婆さんと言うには、申し訳ない程の、中年のがっしりした

大柄な女薬使いは、数年前に、老アーリー婆さんから、

その名を譲り受けたという。

　「じゃあ、前のアーリー婆さんは？」

　「亡くなりましたよ。裏の畑の隅に、埋めました。」

　薬の用でないなら、さっさと帰って欲しいとばかりに、だんだん

邪険になって来る、薬使い達の態度に、押しの利かぬセヴィリスは、

辟易して、退散するしかなかった。

　幸いドリスの怪我は、四、五日、歩行を控えれば、良くなると、

セヴィリスは診断し、適切な手当てもできている。

　アルフィーニは、言葉と魔力を取り戻し、目的は、半ば達せられた。

　残るは、黒い霧の騎士についての調査だが、あまり

隊列に近寄ると、また捕まる危険があった。

　仕方なく、上空、高くから観察すると、ルテシア軍から、

なぜか、黒い霧は消えており、ごく普通の軍隊の、様相を呈している。

　ただ、ドリスに言わせると、遠すぎて、はっきりとしないが、

隊列が、やや短くなっているらしい。

　「斥候部隊以外にも、別行動をとる遊撃隊を、

　　切り離して、どこかへ派兵したみたい。

　　たかだか、滅びかかった、コーブリオン如きの制圧に、

　　どうして、そんな手の込んだ戦略が、必要なんだろう。

　　無国籍地帯を、位討ちすれば、済む事なのに。」

　「強大な山賊集団がいるとか、魔術師対策とか・・・かな？」

　アルフィーニは、魔術師対策論には反対だった。

　「百万の兵で囲んでも、私やケルビンを殺せはしない。

　　ダルトンもだ。セヴィリスだって、いざとなれば、

　　相当な力を発揮する。確かに見たもの。なあ。

　　だてに、大隠者の、一番弟子なのではない。」

　「しかし、山賊に対するなら、一兵でも多く、見せ付けて

　　やった方が、詰まらぬ野心を挫くのには、いい筈でしょう。

　　上手くすれば、素直に投降して来た者を、兵力にできる。」


　探しあぐねて、結局、森の小屋に引き返した三人は、

明日、もう一度、小屋の周囲から捜索し直そうと、

長杖の明かりの元で、もう一夜を過ごす事になった。

　昨日の斥候部隊が、まだ、周辺にいることを懸念して

明かりが漏れぬよう、扉や窓、壁板の隙間などを、

用心深く塞ぎ、ロバのアルフィーニも共に、閉じこもる。

　そして、ミランが調達してくれた食料を、分け合ったのだが、

ドリスは、燃え尽きた蝋燭の跡に、目を留めるたび、

お調子者の事だから、と言う小さな怒りが、次第に、

深い心配に、変わって行くのを、留める事が出来なかった。


　その頃、ミランは・・・

　いずことも知れぬ、水漬いた石牢で、壁から延びる鎖と手枷に、

繋がれ、朦朧とする意識の中、唯一つの言葉を、無意識に、

つぶやき続けていた。

　「・・・ドリス・・・ドリス、待ってて・・・

　　・・・明日の朝には、戻るから・・・」

　しかし、聞くものは、蟲鼠の類さえ、一匹たりともいなかった。

　　　　　　　　　　　　続く

　いつもより、短いです。これ位が、本当はいいんだろうけど・・・

　「待ってて」二人の男が、言い残しました。でも、二人の女は、待ってなんかいません。

　っていう、お話でした。それにしても、ミランの捕まってるのは、どこでしょう。

　ちゃんと、ヒントは出てます。探して下さい。

　　では、また、次回。今日も、お越し下さって、ありがとうございました。