2013年10月20日

風の歌 407



    The Song of Wind (407)

 南国は、もうすっかり、夏の景色であった。

 ジャドゥビスは、ユリシアと二人きりで、街道を西へ、

馬の轡を並べて、仲良く辿っていた。

 ラゥオールフィアを、傷心のまま発ち、海路を、サイカスから

そのままレト川を上り、都ノビリアへ着いてみると、

王宮前に整列した、衛兵の中に、早くも、知った顔がある。

 ガラノデルムから、「真白き三日月」湖を、船で渡るルートで、

モーズロードンに先回りしていた、ミランであった。

 登用試験に合格し、兵士の列の端に、早速加えられている。

 ジャドゥビスは、一応、添え状を書いてやったが、

大公三男坊の書状など、いかほどの効力が、あったものか。

 むしろ、ジャドゥビスの添え状を見て、モンティエ大公に、

確認の連絡を取ったと、考えた方が、筋が通っている。

 ジャドゥビスは、折々、末っ子を心配する両親に、手紙で、

近況を知らせていたから、ミランの活躍ぶりについて、

モンティエ公は、ある程度知っている筈であった。

 だが、逆に、間諜の疑いを、持たれる可能性もある。

 それらの評価を超えて、彼が、ここにいると言う事は、

やはり、「何かを持っている」と、人に思わせる所が

あったのだろう。

 ジャドゥビスと、一瞬視線が合うと、相好を崩して、

嬉しげに笑って見せた。それは、その後ろに、ドリスの姿を

見つけたからかも知れなかった。
 
 城に入ると、ドリスの役目は、終わりであった。

 衛士隊へ戻る手続きを終え、彼女は早々、ミランに面会しに

出かけてしまった。

 ジャドゥビスも、国王夫妻に報告を終えれば、後は、

帰郷するばかりである。

 都の上屋敷では、留守居の執事が、またしても、

御付きだ行列だと、騒ぎ立てたが、ジャドゥビスは、

それら全てを断った。

 来る時と同じ、貴族の荘園伝いの街道を、

ただ帰るだけである。なだらかな丘と森、農地ばかりの、

危険の少ない道であった。

 執事は、白髪のか細い少女を、まじまじと、公子と見比べ、

意を決して、行列の手配を取り止めた。

 ジャドゥビスは、ようやく、一人きりの時間を得た。

 ユリシアは傍にいるが、人の邪魔をする娘ではない。

 その本性は、風。しかし、モーズロードンに着いた頃から、

その存在は、人の娘と、余り変わりなく、なって来ている。

 伏せ目がちの、暗い表情の娘は、時折、白い頬に、

血の気を昇らせ、水色の瞳を見開き、表情豊かに、

笑みを見せる事が、多くなっていた。

 そして、ノビリアを、二人きりで発つ頃には、全くすっかり

人間の娘そのものであった。

 途中の宿でも、貴族の館でも、ユリシアを人でないと

感じた者など、一人もいなかったに違いない。

 
 街道は、緩やかに上り、小高い丘の、果樹園を抜けて行く。

 右は眼下に小さな湖。

 空は、青天高く、日は眩しく水面に煌いている。

               続く



 ああ、またしても本文のみ・・・

 七五三の被布を縫ってるの。

 なんで、こんなに、わらじの貸さね履きをしてるのか・・・

 また次回、何か書きます。今日もお越し下さって、ありがとうございました。
 


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Posted by さあちゃん at 14:53│Comments(0)ファンタジー
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