ぶるんねん文庫

　ヤブラン・・・かな

　隠れ庭。彼岸花の赤と、

　ひそやかなる薄紫。

　後ろに、枯れたアジサイの

　ふしぎな、褪せた緑。

　紅葉はまだ先・・・

　でも、楓は頭上に、少し疲れた、

　溜め息色の緑。

　空が高くなったよねって、

　ひそひそ、木の葉擦れのお喋り・・・


　　　　Ｔｈｅ　Ｓｏｎｇ　ｏｆ　Ｗｉｎｄ　（３９８）

　「どうして・・・どうしてそれを、シシィが持ってるの！？」

　その悲鳴にも似た言葉を、真剣に受け止めたのは、

その場には、一人を除き、誰もなかった。

　「それは、ラゥオールフィアの、王位継承者の証・・・

　　だから、私も持ってる・・・」

　オリザ姫の襟元からも、同じ飾りが、引き出された。

　白い貝細工の、小さな容器である。

　二人がそれぞれに開けると、ほぼ同じ、紅玉細工の

八芒星が現れた。

　極上の紅玉らしく、その輝きは、夕刻の西日の中でも、

目を射るほどであった。皆、驚きすぎて声もなかった。

　「これが・・・なんやて？王位継承者の証？

　　どう言う事やの？ママの、大切なお守りやと思ぅてた。

　　絶対、触らしてくれへんかったのに、亡くなる時、

　　『これを・・・』って、鎖を襟から出しかけて・・・

　　せやから、くれる気ぃやったんかな、って、思ぅたんや。

　　でも、王位継承者って言う事は・・・

　　ママは、どっかの、王女様とかやったん？」

　セヴィリスは、常になく急き立てられるように、

身を乗り出して尋ねた。

　「どっか、じゃない。ラゥオールフィアの、だ。

　　シシィ、ママの名前は？」

　その時、ドアの前で、わっ、と言う声がした。

　ケルビンが、魔術で気配を消し、部屋を逃げ出そうとしたのだ。

　しかし、ミランとドリスが、ドアの前に先回りしていた。

　シシィの親のことなら、ケルビンが関わっている筈だし、

まずい立場になると、こっそり姿を消すのは、

毎度の事であったから、当然である。

　二人に両腕をとられ、席に引き戻されたケルビンは、

憮然として、横を向いた。セヴィリスは続けた。

　「シシィ、ママの名前を言って。フルネームで。」

　おずおずと、シシィが言った。

　「・・・シェレーネ・ジェンティーナ・・・」

　「おばあさまの名前だわ！！」

　オリザ姫が再び叫んだ。

　「おとうさまが赤ちゃんの頃に、突然、いなくなってしまった、

　　おばあさまの名前よ。

　　だから、今も、おばあさまは、生死不明のままで、

　　おじいさまは、一人で墓陵島に祀られている・・・」

　「どう言う事かな？ケルビン・・・説明してもらおうか？」

　ケルビンは、それでも、どうにか逃げ出す機会を

覗っていたらしかったが、後ろに鯉口を鳴らして、

ジャドゥビスが立つと、諦めて、ようやく前を向いた。

　「・・・シェレーネは、不幸だったのだ。

　　女癖の悪い、傍系の王子に、操を奪われ、

　　女王となる筈が、王位継承権も奪われ、

　　後宮のお飾り、世継ぎを産む道具とされ、

　　数ある女達の一人しか、数えられず、

　　世継ぎを得た後には、かえり見られる事すらなく、

　　美しく、名誉ある生まれでありながら、ただ石の奥殿で、

　　老い朽ちていく運命しか、与えられず・・・

　　私は、お抱え魔術師の職を求めて、王宮を訪ね、

　　シェレーネを見かけ、一目で心奪われたのだ。

　　だから、この不幸な境遇を、許す事ができなかった。

　　それ以前に、邪な企みに、巻き込まれかけていると、

　　分かった時には、伝手を頼み、正式に人をたてて、

　　申し込みもしてみたが、もちろん、相手にされず・・・

　　だから、私は、シェレーネを攫った。石の奥殿から。

　　もちろん、当初は、泣いて責められた。

　　王子の行く末が、気がかりだと・・・当然だ。

　　私は、グレイアムに頼み、シェレーネを、度々、王宮に

　　連れて行った。月の夜を選び、王子に会わせる為に・・・」

　　　　　　　　　　　　　　　続く

　最後のトリックです。どうです

　最初っから、仕組んであった物としては、これでおしまい。

　もうないからねっ

　パストリアで、宮廷陰謀絵巻をやろうと、思ってたけど、次作に回します。

　次作予告したでしょ

　アルフィーニの３００年前のお話。「竜の見る夢」

　いつになるかな

　実は、いやな予感がしている。竹取物語を下敷きに、５人の貴公子と、

　クレーベスタの使者と、皇帝との、大陰謀絵巻を構想してたんだけど、

　ジブリが「竹取物語」やるんだって

　かぶったら、やだなぁ・・・

　さて、いつ書けますか。保育士取ってからだな。

　この後は、誰かの告白と大失恋。さて、だれでしょう。

　ちょっと、影の薄くなってるのは・・・

　わざと、焦点ずらしてあったんだ。

　ではまた次回。今日も、お越し下さって、ありがとうございました。