ぶるんねん文庫

　
　小さき物好き。

　奥行きのマジック。

　この哀愁に満ちた色。

　小ささが悲しく、

　吸い込まれそうで、

　少し恐ろしい、

　箱の中。


　　　　Ｔｈｅ　Ｓｏｎｇ　ｏｆ　Ｗｉｎｄ　（３７１）

　「陛下・・・」

　弱々しくではあったが、王妃は、はっきりとした声で、

詫びの言葉を述べた。

　「わが身の勝手で、ご心労をおかけしました。

　　お許しくださいませ。また、人ならぬ前身ゆえと、

　　わが身を、どうか、御見限りに、なりませぬよう・・・

　　どうか・・・どうか、お許し下さりませ・・・」

　「王妃・・・マヤリス・・・案ずるな。見限りはせぬ。

　　そなたが、正しく人であること、余が、一番よく存じておる。

　　病で、気に迷いが生じただけの事。許す。

　　早う、良くなって、・・・いや、明日にでも発って、

　　ヘリアンタに戻ろう！・・・どうだ？無理か？」

　マヤリス妃は、微笑んだ。が、小さくかぶりを振った。

　「それは、まだ・・・ありがたき仰せながら・・・

　　では、お言葉に甘えて、もう一つ、お願いを

　　お聞き届け頂けましょうか？」

　「何なりと・・・何だ？・・・食べたい物でも？」

　「いえ、・・・この、卑しき、人ならぬ女の身より、

　　貴き王家の世継ぎを、産み参らせる事・・・

　　お許し頂けますでしょうか。」

　「何と！？」

　その場の人々は、誰もが等しく肝を潰した。

　が、マヤリス妃は、微笑を絶やさず、言葉を続けた。

　「それに、姫君も・・・共に。」

　暫く絶句していたネレイド王は、気を取り直すと、満面に喜びを表し、

立ち上がると、今にも小躍りしそうになりながら、声を張った。

　「許すも何も・・・めでたい事だ！！

　　これ以上の、めでたい事はない！！

　　マルヴィッツ夫人！今宵は宴を・・・いや・・・王妃が不例ゆえ、

　　内輪だけで！・・・物要りさせるが、頼むぞ！！」

　マルヴィッツ夫人は、王妃の不調が、つわりと分かり、ほっとした。

　「さすがに、魔術師の娘だ。男女の双子を身籠ったと、

　　わが身で分かるのか。大したものだ。この上は、大事をとって、

　　よく養生させてもらうが良い。

　　手当ては、十分にヘリアンタから送るゆえ。」

　「それともう一つ・・・

　　世継ぎの君の御名は、父君が、お付けになりましょう。

　　ですが、姫の名は、私に付けさせて下さいませ。

　　・・・サフィール、と・・・」

　「何？サフィール！？バルツァードの都の名ではないか！」

　「元は、女の名前でございます。どうかお許しを・・・」

　ネレイドは唸った。攻め込んでいる国の、都の名を、

姫の名につけると言う事は、もはや、その国には攻め込まぬ、

と言う、証しのようなものである。

　だが、ここで怒って、病人を落胆させるわけには行かぬ。

　ようやく持ち直したものを弱らせて、待望の世継ぎを、

水に流したりしては、元も子もない。

　「それは・・・分かった・・・許す。姫の名・・・

　　サフィール姫か・・・名としては良い。

　　では、王子の名を考えておこう。良い名をな。」

　麗らかな冬日が、白く、窓深く射し、二人を照らした。

　春は、足音を忍ばせて、そっと、そっと、近付いていた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く

　とうとう、ルテシアにも世継ぎが・・・どころじゃない。

　この双子は、つまり・・・

　ユリシアは、憎悪を集めようとしていた、黒い霧を、連れて行ったけど、

　マヤリス妃は、そうじゃなかったから、連れて行かなかった・・・

　そして、同類だったジルが、サフィールをつれて・・・って事で、時系列あってる

　ネレイド王が手放しで喜んでるって事は、覚えがあるんだろうしね・・・

　　次回、第四章最終回。そして、第五章へ。お楽しみに。

　　　今日も、お越し下さって、ありがとうございました。雨乞いのつもり