ぶるんねん文庫

　庭一面に跋扈する、　

　ドクダミの花。

　正確に言うと、この白いのは、花じゃない。

　花は、真ん中の、花芯に見えるところ。

　あの、もしゃもしゃが、花の集まり。

　白いのは、総苞。花弁ではない。

　と、図鑑に書いてあった。

　「四枚の白い総苞の中心に・・・」

　四枚・・・ん

　・・・五枚あるじゃん　　


　　　　Ｔｈｅ　Ｓｏｎｇ　ｏｆ　Ｗｉｎｄ　（３６３）

　黒い泥状と化した霧から、弾き出されたその体は、

しかし、力なく倒れた。ヘキサグラムの円柱から、

だらりと、その腕が下がった。

　「シシィ！」

　誰もが叫んだ。だが、シシィが起き上がる様子はない。

　それどころか、その皮膚に血の気はなく、その胸に

呼吸の気配はない。皆は凍りついた。

　ふいに、泥が立ち上がった。

　異様な粘性を見せて、それは暫く拍動していたが、

次第に表面が波立ち、絨毛化し、更にそれが細かく粒子化し、

めらめらと、炎となって立ち昇る。

　アルダイスは、呆然とするケルビンから、金の長杖を取り返した。

　そして、轟然と言い放った。

　「粒子生命体を興奮させたな！

　　もう手は付けられぬ。ベインダリファ砲は、最早、失われた。

　　徒手空手で、あれの興奮を鎮められると思うなら、やってみよ。

　　私は知らぬ。時空円錐に、あれの時空軸が影響を及ぼしたら、

　　『創造者』は、直ちにこの空間を滅するだろう。

　　百万年後の破滅を厭うて、今日の破滅を招くのだ。

　　この空間は、あれの発する微小高次元空間で、いっぱいだ。

　　私は、これの影響を受けたくない。」

　アルダイスは踵を返した。ケルビンは、はっと我に返ると、

　シシィのもとに駆けつけようとした。己の座に入りかけた、

アルダイスが、ちら、と、それを振り返った。

　突如、ヘキサグラムの円柱の周囲に、火が燃え上がった。

　ケルビンは、炎に阻まれ、シシィに近づけなくなった。

　アルダイスは高笑いを残して、姿を隠した。

　天井を床にしていた重力が消え、ソルダムが宙に投げ出された。

　アルフィーニが受け止め、レリーフの床に下ろす。

　足が付くのを待ちきれず、ソルダムは、円柱に突進した。

　だが、炎の壁は厚く高く、熱気は、天井を炙っている。

　シシィと炎までは、かなり距離があるが、炎が旋風を呼べば、

早晩、火に包まれるのは必定だ。

　オリザ姫が、緩やかに着地した。

　白い翼が融け、ユリシアの姿に戻る。

　ケルビンは驚愕の目で、それを見た。

　・・・ユリシアがいる・・・シシィは生きている！・・・

　矢も立てもたまらず、ケルビンは、電撃で炎を割って飛び込んだ。

　が、炎が分かれたのは、一瞬だった。

　すぐに戻った炎は、ケルビンを包み込んだ。絶叫が起こった。

　「ケルビン！何て事を！！」

　ユリシアが、霧でケルビンを包み込み、守りながら、

炎から、引きずり出そうとした。が、それを、踏み越えるように、

さらに、飛び込んだものがいる。ソルダムだった。

　ソルダムは、炎を越え、円柱によじ登り、シシィを抱き上げた。

　が、やはり、その体に命の兆しはない。

　「シシィを・・・殺したな！」

　ぼっ、と、黒い霧の炎が揺らいだ。

　「・・・コロス・・・ゾウオダ・・・アラタナゾウオダ・・・

　　ホシイ・・・ソノゾウオガホシイ・・・」
　
　「何だと！？」

　黒い霧の、その声は、軋む音に似て、風の唸りのようだった。

　よほど耳を澄まさねば、聞き取れぬ。

　その、澄ました耳に、別の声が聞こえた。

　「ソルダム！助けて！ウチを、ウチの体に帰らせて！！」

　紛れもなく、シシィの声だった。

　だが、その声は、黒い霧の中から聞こえてくる。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く

　この回、何回書き直すんだろ・・・下書き入れたら、５回目・・・？

　最初のは、まあいいです。随分違う内容だから。

　２回目はメモ書き。３回目、ほぼがっちり、書き込んでました。

　で、ブログに上げて終わり・・・４日も前に書きあがってたのに、

　３６４回を書いてる途中に、寝落ちして、慌てて下書き登録したら、

　期限切れ・・・戻って、この回を読み直して、書き直し、再登録・・・

　・・・あれ？復元しますかって？・・・うっかり復元押したら・・・

　消えました。スッペリ、３６３回、苦労した回が、一瞬で。

　なんでやねん！！！！！では、また次回。・・・３６４回、もう出来てる。

　・・・今日も、お越し下さって、ありがとうございました。