2013年04月14日

風の歌 330



    The Song of Wind (330)

 休み休みでも、蛞蝓ほどの速度でも、早朝から夕刻近くまで

掛かれば、どうにか、サフィール火山を半周できる。

 水面下は、深い湖底まで、溶岩の山が続いているが、

水から出ている部分は、大きくも、高くも無い。

 が、山頂近くの岩は、まだ熱を持っていて、雨雪に湯気が立つ。

 ただ、どう言う訳か、二日ばかり前から、噴煙は止んでいる。

 ・・・急がなければ・・・

 何を急ぐのか、ユリシア自身、明らかな意思は無い。
 
 ・・・取り憑かれたのだ・・・サフィールを魅入った魔物に・・・

 ユリシアの中の、「理」が囁く。

 ・・・そうだ、取り憑かれている・・・

 でなければ、こんなことはしない。

 マルヴィッツ夫人や、傍付きの老女の心配顔も、もはや、

心に、浮かぶことはなかった。

 
 大きくせり出した溶岩の塊を、乗り越えたユリシアは、

あっと、声を上げた。

 そこから先は、拳大から人頭大の石の積み重なった、一面の、

石の原であった。それが、ゆるい下り坂を描き、そのまま湖の、

汀にまで続いている。

 その先は、夕霧のヴェールに覆われた、広大なサフィール湖。

 漁師の言う浅瀬は、白波と黒い石の色が合わさって、

無彩色のグラデーションを、形作っている。

 ユリシアは、波打ち寄せる渚に立った。
 
 ・・・サフィール・・・

 やっと来た。来なければならなかった、場所へ・・・

 ・・・サフィール・・・あなたの魂の眠る場所へ・・・

 邪な企みに、揺り起こされた安寧の魂が、再び眠りにつく為の、

 遠い旅路・・・もし、「魂」が、本当にあるのなら、だが・・・

 ・・・魂は、ある。誰にだって、何にだって。

  ・・・そう、私にだって・・・

 でも、それが始まりだった。

 一瞬の邂逅。

 人となった魔石と、黒い霧に憎悪を与えた、邪悪な魂との。

 ・・・彼は、知っていたのだろうか・・・

 魔石が、本当は、「石」ではない事を。

 意識ある粒子の、高密度集合体である事を・・・

 勿論、知っていたのだろう。そうでなければ、ただの石を、

人に変えようなどと、思い付く訳が無い。

 仲間から切り離され、幾万の年月を経て、人の姿を得た「それ」は、

それまで、彼に力を与えていた、黒い霧と異なり、いまだ憎悪に

触れていない物だった。

 ・・・憎悪に触れぬ、粒子生命は、どれほどの力を持つのか・・・

 ファーゴの思惑は、師アナトスに阻止された。

 更に、その憎悪に満ちた企みは、ダルトンによって潰えた。

 だが、ファーゴに覚醒させられた、暗き魂は、容易に再びの

眠りに憑こうとは、しなかった。

 サフィールは、己の分身をとどめる為、一つの魂に、息吹を与えた。

 はるか西に、未だ生まれぬ赤子の魂に触れ、力を与えた。

 ・・・我が悲しき分身の魂に、再びの眠りを・・・

 しかし、裏切りと唾棄の衝撃に、憎悪の鬼と化した、人為らぬ魂は、

その報復の矛先を求め、この星の命運をも、揺るがそうとしている。

 ・・・シシィ!目覚めて!私のために歌って!!・・・

 ユリシアが、歌い始めた。

 湖面が、俄かに泡立った。

 ・・・黙れ!黙れ!黙れーーーっ!!・・・

  突如、天を貫く水柱が、立ち上がった。

                   続く


  ついに出てきちゃいました。科学用語。では、パートに行って参ります。また次回、お楽しみに。

  今日も、お越し下さって、ありがとうございました。


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Posted by さあちゃん at 10:35│Comments(0)ファンタジー
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