ぶるんねん文庫

　「丘の上　ひなげしの花で

　　占うの　あの人の事を・・・」

　懐かしい歌なんだけど、

　当時、既に、ひなげしが

　どんな花か知ってたから、

　「あれで占ってもなぁ・・・」って、

　思ってた。

　情緒欠陥児的発想だね。


　　　Ｔｈｅ　Ｓｏｎｇ　ｏｆ　Ｗｉｎｄ　（２１９）

　深い、昏睡の中で、テオは必死に、何かから逃れようと

もがき続けていた。街道で、荷馬車ごと、黒い霧に呑まれ、

己が手元も見えぬ真の闇は、少し行くたびに、壁に突き当たり、

まるで、迷路のようだ。

　その中を、今にも、襟髪を掴まれそうな、恐怖に駆られて、

必死に逃げ惑っている。

　後ろを振り返っても、何も見えぬ。

　だが、気配はある。何者かの、邪悪な息遣いが迫ってくる。

　テオの真後ろで、そいつが動くたび、空気が揺れるのだ。

　・・・助けてくれ！・・・ここから出してくれ！！・・・

　叫んでも、耳に聞こえる声は無い。

　突き当たった壁を、叩いてみても、反響音が無い。

　足が、床を踏んでいるのに、足音も無い。

　しかし、それを不思議だと感じる余裕が、テオには無い。

　逃げ惑い、駆け回り、声にならぬ叫びを、繰り返すばかりだ。
　
　不意に、明るい場所に出た。

　一瞬後、目が慣れた。明るくはなかった。

　むしろ、薄暗いくらいだった。だが、それまでの、文字通り、

鼻を抓まれても分からぬ、暗闇に比べれば、部屋の隅々までが、

見渡せるだけの、明るさがあった。そう。そこは、「部屋」だった。

　天井も床も壁も、ひたすらに黒く作られた、部屋。

　そして、その中央に置かれた、一個の四角な黒い石。

　・・・なんだ、あれは？・・・

　テオは、石に近付こうとした。

　突然、視界が遮られた。目前に「何か」が、現れたのだ。

　驚き後退り、その「何か」を認めた時、テオの魂はブチ切れた。

　それは・・・一個の巨大な眼球。

　しかも、周囲に血管や神経の筋を引き摺り、それでも、なお、

生きて、視力を持つ物の様に、虹彩が伸縮し、瞳孔が開閉する。

　その瞳孔が、目一杯に開き、巨大な角膜に、己の姿が映った。

　曲面のそれは、奇妙に歪んでいる。眼球の視線とテオの視線は、

完全に合致しているのだ。眼底の網膜に、その像が結ばれる。

　眼球がゆらりと近寄り、血走った白目の部分が、視界から外れた。

　同時に、テオの意識も、途切れてしまった。

　
　テオの意識を、読み取っていた老神官は、大きく息を継いだ。

　それは、今までに読み取ったことの無い、不可思議で、

不気味な記憶だったからだ。

　悪夢や空想ではない、実体験の、記憶を読む魔術で、

これほどまでに、おぞましい記憶は、余り無かった。

　「ファーゴとやら、生半な魔術師では、ありませぬな。

　　己を失わせるにしても、ここまでの恐怖に陥れる

　　必要はないでしょう。」

　「それで、黒い霧の記憶は？」

　ドリスは、請求に尋ねた。

　老神官は、苦しそうに、額の汗を拭いながら答えた。

　「それは、まだ・・・だが、あの迷路を満たしていたのは、

　　その、黒い霧かも知れませぬな。」

　「急いでると言ったでしょう。

　　あのトカゲ共を、追っ払う為には、黒い霧の秘密を、

　　解かねばならないの。・・・ミランの言った通りなら。」

　疑われて、ミランは、いきり立って、何か言い返しかけたが、

ユーディスに、制されて黙った。老神官の、テオの額に置いた、

手が、再び、光を発し始めたからだ。

　「・・・どこか・・・兵舎ですな。・・・剣の鍛錬を受けている。

　　法術師の十二節の長杖・・・法衣の者に、何か言われた。

　　・・・見下ろしている・・・背の低い相手のようだ・・・」

　「ファーゴだ！！やはりあやつか！

　　何を言われたのだ？黒い霧の使い道か？」

　アルフィーニが、急き込んで尋ねた時だった。

　けたたましいノックの音がした。返事を待たずに、

扉が開けられ、焦り顔の番兵が、一息に伝令を伝えた。

　「タンベルディ伯爵、アクティオン司令。

　　緊急に軍議を開きたいと、将軍達が、お集まりです。

　　すぐにお出でください。」

　　　　　　　　　　　　　　　　　続く

　　・・・気味悪いものばっかり出して、すみません。

　でも、やっぱり、「目」って、怖いでしょ？　　

　内臓とか解剖とか、苦手の方、申し訳ありません。

　ウチは、医療系卒（次男）が、解剖学関係の本を、置いて行ったので、

見るのは、何でも平気なさあは、こんな化けモンも、思いつくわけです。

　　では、また次回。今日も、お越し下さって、ありがとうございました。