ぶるんねん文庫

　
　薔薇も好きです。

　こういう小さいものも、大輪も、

　赤も黄色も、白もピンクも。

　パート先のスーパーで、ときたま、

　安くなってたりして・・・

　情緒の無い家に育ったので、

　訳も無く、花を生ける習慣が無いのですが、
　
　これくらいなら、いいかなって、思う値段です。

　必ずしも、好みの花が、安くなってる訳じゃ、

　ないので、本当に、ときたまです。


　　　　Ｔｈｅ　Ｓｏｎｇ　ｏｆ　Ｗｉｎｄ　（２１８）

　テオは、まだ時折疼く、傷の痛みに、顔をしかめながら、

ベッドから起き上がった。扉の向こうで、何やら押し問答を、

しているのが、聞こえたからだ。

　・・・ドリスと竜の魔女と・・・後は、誰か男だな・・・

　ここの待遇は、捕虜としては、悪くは無かった。

　グロリオーサ城で、ボウガンで撃たれて捕まった時は、

避難所で、傷の手当の後、無事な手足に、逃亡防止に

枷を着けられ、屋外に、天幕一枚、下は石畳に敷布だけで、

丸太の様に、転がされていたのだ。

　グロリオーサは、未曾有の大洪水が起こっていた。

　避難所になった、高台の小神殿は、避難民で一杯だった。

　だから、それ以上の待遇は、望むべくも無かったが、

それに比べれば、ここは極楽である。

　どのみち、元は、貧しい水呑み百姓だ。

　こんなガラス窓のある部屋に、住んだ事など、一度も無い。

　傷は、医薬に心得のある神官が、毎日丁寧に手当てし、

その様子は、逐一、上に報告されているらしい。

　鏃を切り出した後が塞がれば、牢獄に移されるだろう。

　それでも、少しでも、ましに扱われたい。

　それには、知っている事を、洗いざらい、全部さっさと、

ぶちまけてしまえば、いいのだが、それが出来ない。

　・・・知っている事が、ない・・・

　バルツァード王のおっ母さんと言う老女を、荷馬車に乗せ、

同じ村のマチアス・メイガンと共に、ヘリアンタを目指して、

街道を旅した事は、覚えている。

　そこから、どうやって、「真白き三日月」湖の向こう、

ナタレンス公領、グロリオーサまで、行ったのかが、

皆目わからない。

　ルナンシア近くの森で、ドリスに怪我を負わせた事も、

思い出せない。黒い霧の投網を、投げただろうと

言われたが、それも、何の事だか分からないのだ。

　まして、バルツァード王の行方など、知る由も無い。

　自分が連れ出した、アルナス后は、無事に太陽宮に、

保護されたらしいので、それには、安堵した。

美人だが、荒っぽい口調のドリスに、自分の保身の為、

情報を小出しにする、小ずるい奴と、絞り上げられても、

如何とも、し難いのだ。

　時に、無意識に、ふと、覚えの無い事を口走り、

鋭く詰問され、「そう言えば、確か・・・」と、思い出した事が、

二、三、あったのも事実だ。

　だが、意図的には、なかなか思い出せない。

　テオは、頭を抱えた。

　廊下では、ドリスが看守と話をつけたらしい。

　かなりの勢いで、扉が開かれた。

　小さな虜囚部屋に、雪崩れ込んで来たのは、ドリスと、

アルフィーニ、ミラン、ユーディス、そして、気難しい表情の、

年取った、一人の神官だった。

　ドリスは、自分の親より、年上かと思われる神官に、

激しい口調で命じた。

　「時間が無い。すぐやって。

　　ファーゴの魔術のせいで、思い出せないのなら、

　　魔術で、思い出させてやる。

　　もう、宥めすかして、聞き役に徹するのは、終わりだ。

　　後で、素直に喋ってしまえばよかったと、後悔しても、

　　遅いから、覚悟するがいい。」

　神官は、やや逡巡していた。

　「よろしいのか？無意識の記憶を喋らせれば、

　　その後、二度と目覚めなかったり、忘れたままで、

　　いた方がよい事を、思い出して、気が触れたり

　　する事もあるのだが・・・」

　テオは、驚いて顔を上げた。しかし、その額に、

光を発する指を突きつけられ、意識は、瞬時に失われた。

　再び横たわったその姿を、ミランは、痛々しげに、見下ろした。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　続く

　ね・・・眠い・・・

　ちょっと無理してしまった。後書きは、また次回に・・・

　今日もお越し下さって、ありがとうございました。