ぶるんねん文庫

　佐川美術館に行って来ました。

　平山郁夫画伯の、シルクロードのスケッチ

　その数と、迫力に圧倒されました。

　そして、セビリア。平和を願う子供達の絵。

　ＮＨＫの特集番組で、この絵を描く

　画伯の様子を、取り上げていました。

　まさか、こんなに近くにあったなんて。

　感動でした。
　
　絶対、あの出不精娘を連れて行かねば

　（写真は、法隆寺の絵・・・多分・・・）


　　　Ｔｈｅ　Ｓｏｎｇ　ｏｆ　Ｗｉｎｄ　（１８５）

　城下町のディーレンは、すっかり武装解除され、

壮年の男達は、一箇所に集められ、厳しく見張られている。

　徴税と賦役の為、綿密な戸籍が、作られていたが、

それが裏目に出て、役所を押さえられると、

誰一人逃げ隠れは、出来なかった。

　町への出入りは止められ、調査の為、徴用されていた、

町の男達は、行き場の無いまま、徴用を解かれ、

大多数は、樹海をさまよい、一部は暴徒と化し、

近隣の町を目指して、移動を開始していた。

　「滅茶苦茶に、まずい状況だ。一刻を争う。

　　王女達を、早く、パストリアへ引き渡さねば。

　　名目を失えば、後続本隊も、無茶は出来まい。

　　僕は、皆を連れに行って来る。

　　ジャドゥビスは、明朝早くに、ディールヴァ城へ、

　　姫達の無事保護と、本日中に到着とを、

　　触れに行ってくれ。」

　セヴィリスは、ケルビンにはまだ及ばないが、

かなり速くなった飛行術で、上空へ上がって行った。

　後に残されたジャドゥビスは、不穏さの満ちた樹海で、

一夜を明かすべく、なるべく城に近い所で、野営しようと、

けもの道ほどの、下草の隙間を進んで行った。

　術師ならぬ身では、軍隊や暴徒の居場所を、

予め、知る事は出来ない。倒木や、小さな茂みにも、

気をつけながら、用心に用心を重ねていると、

大木の陰に、見覚えのある姿が、立ち尽くしている。

　「ケルビン！！何してるんだ？いつ来たんだ？

　　具合が悪いんじゃ、無かったのか？

　　今、セヴィリスが、宿へ戻った所だ。

　　行き違ったのか。なんて事だ！」

　ケルビンは応えず、じっと、城の外壁を見ている。

　近年に建てられた、上部に比べ、下部は、古代建築らしく、

荒く切り出された石材を積み重ね、隙間を楔形の石で、

埋めてある。だが、更に下の、基礎部分は、緻密に組まれた、

巨石が目に付く。石同士に隙間が無い。

　ケルビンは、その石組みを、じっと見ているのだ。

　「城が、どうかしたのか？」

　「・・・あれを・・・」

　ケルビンは、誰にとも無く、ぼんやりとした口調で、

やおら、その巨石を指差し、話し始めた。

　「あれを作ったものが、またやって来て、

　　私を、追い出した。森の民も、もういない。

　　以前には、追い払ったのに。」

　何かに、憑依されているかのような、ケルビンの

不気味な様子に、ジャドゥビスは、ぞっとした。

　時は黄昏。樹海は最早、足元も見えぬ。

　「おい！止めろよ！！誰が、何を作ったって！？

　　せめて、普通に喋れよ！！」

　突然、何かが切り替わったように、ケルビンが、

人がましく、喋り出した。それでも、以前には、こんな事を、

気にしたかな、と、首を傾げる様な、口振りであった。

　宿では、女達が、急な出発に、慌しく支度をしている所だった。

　　　　　　　　　　　　　　続く
　
　平山画伯は、広島で、被爆されました。

　ご存命で、今日の、福島の事を聞かれたら、どう、お感じになられたでしょう。
　　
　瓦礫積み重なる被災地を、描いて回られたでしょうか。

　それとも、ひっそりと画室に籠って、過ちを繰り返す、人類のおろかさを、嘆かれたでしょうか。

　人類は、核戦争だけは、ぎりぎりで避けて来ました。

　でも、核エネルギーを扱う限り、今回の事故は、避けられない事だったと思います。

　人は、消し方の分からない火を、手に入れ、使っているのです。

　人類が炎を目にしてから、燃焼の仕組みを、分子レベルで理解するのに、何万年かかったのか。

　そう考えれば、まだ、後一万年位は、精々、実験仮説、せめて医療レベルで、

収めて置くべきだった筈なのです。でも、事故は起こってしまった。

　26年前に、否、67年前に、気付くべき事に、気付かぬ振りをした、

余りに大きい、つらい代償です。

　　　では、また次回。今日もお越し下さって、ありがとうございました。