ぶるんねん文庫

巻き寿司。撮影日は、もちろん2月3日。

　今頃言いたい事が、あったから。

　巻いてる時に、ちょっと悔しくなったから。

　　　　　　　
　
　巻き寿司も、布団の仕立ても、　

　母親が教えた。熱心に口やかましく。

　今となっては、別に必要ない技術。

　勉強も手伝いも、出来て当然だった。

　褒められた記憶は無い。何をしても叱られた。

　成績が下がるのは、ご法度だった。


　でも、一芸に秀でた人間になる事、表現者になる事は、許されなかった。

　自己表現に通じるものは、全て取り上げられた。原稿用紙も絵の具も捨てられた。

　作文は、母が代わりに書いた。私が書いてると、書きたい事が多くて終わらない。

　時間の無駄だと、止めさせられた。母が書いたものを、丸写しさせられた。

　それが入選して、講堂の壇上で読むことになった。

　全校生徒（1300人くらい）の前に立った時、声が出なかった。

　こんな出鱈目は、許されないと思った。

　その時、保護者席に、母の顔を見つけた。私は、仕方なく、詰まり詰まり読んだ。

　私は、私が生きる事は、死んでいる事と、大差ないことを知った。

　私の皮を被った母が、代わりに生きているのだと思った。


　　　Ｔｈｅ　Ｓｏｎｇ　ｏｆ　Ｗｉｎｄ　（１７６）

　灰色の壁が途切れながら、ずっと続いている。

　曲がり角ばかりが、無数にある。

　行き止まりまで、真っ直ぐ行くと、分かれ道であった。

左右に、直角に通路が延びている。

　「本当の迷路だ。」

　ソルダムは、一人ごちた。

　迷いながら、左へ曲がってみる。しかし、やはり同じ様な、

灰色の壁が続いているばかりだ。

　壁の途切れた所へ、入ってみると、また、同じ様な壁の

通路がある。すぐに右へ曲がっている。

　道なりに行くと、完全に行き止まりだった。

　引き返そうとしたが、見落としていた、分かれ道がある。

　自分が来たのは、どちらからか、分からなくなった。

　当てずっぽうに、左を選んだ。

　正しかったのか、間違ったのかも、分からない。

　さすがに、疲労が積もってきた。天井からは、白い光が、

差し込んでいるが、そろそろ夕刻かと思われるのに、

その光量も、光の色も、何ら変化が無い。

　・・・太陽光ではない・・・

　太陽でなければ、炎か、魔法使いの発する光か。

　どれとも違う気がした。が、不思議を感じる心が、

麻痺しているのか、それ以上、思考が進まない。

　・・・ひたすら歩いた。ついに、体力の尽きる時が来た。

　冷たい、磨かれた石の床に、胎児の様に背を丸めて、

ソルダムは、横たわった。意識は、余りにも速やかに、

遠のいて行った。気を失ったのと、変わりはなかった。

　どれ程眠ったのか、眠りに落ちたのと、同じ速やかさで、

目覚めが来た。疲れが取れ、少しは、頭がはっきりした。

　ソルダムは、今見た夢を、思い出そうとした。

　夢の中でも、ソルダムは、迷路の中にいた。

　しかしそれは、大都ヘリアンタの、迷路に似た街路だった。

　高い城壁を、幾重にも廻らせて、外敵の侵入に備えた、

要塞都市ヘリアンタ。だが住民には、不便極まりない。

　その為に、塀のあちこちに門があり、番兵が立っている。

　事あれば、直ちに門を閉じる為である。

　しかし、道を教えてくれた店屋の主は、

　「余所者には、内緒だが・・・」

　と、断わってから、そっと、耳打ちしてくれた。

　何事かがあって、全ての門を閉じられても、

お城に、行き着く事はできる。一方の手を壁に当て、

放さぬように、壁に沿って歩くのだ。

　時間はかかるが、必ずお城の正門に、辿り着ける。

　そう作られているのだ、と、その主は言った。

　援軍を、道に迷わせる訳に、行かないからだと。

　「一方の手を・・・か・・・」

　ソルダムは、己の指先を剣で突いて、スタート地点に、

血で印を付けた。他に、目印をつける方法が無かった。

　そして、左手を壁に当てて、歩き始めた。

　曲がり角にも、印をした。袋小路だった場合、

向かい側の壁に、印が見える事になる。

　ソルダムは、再び歩き始めた。

　もし、堂々巡りの迷路で、スタート地点の印の所へ、

戻ってしまったら、正気を保てる自信は、なかった。

　が、歩くしかなかった。

　ゴール地点があるなら、行き着かねばならなかった。

　　　　　　　　　　　続く
　
　このシーンは、削除する予定でした。借用シーンだし・・・

　でも、入れちゃった・・・戦乱は、意外な所でも、起こってるんです。★★★★★

　迷路脱出方法。これ、本当なんです。やってみてねって、やる所、あんまりないか・・・

　では、また次回。今日もお越し下さって、ありがとうございました。