ぶるんねん文庫

　そうそう、これが、いつもの愚娘。
　
　だらんと寝て、ゆっくりしてる。

　慌てたり、急いだりしている所を、

　絶対、人に見せない。

　わかってる。多分、恥ずかしいんだ。

　照れて、ばたばたしてる所を、外に出さない。

　急ぐべき時にも、「急いでないもん」って、

　言う振りをする。そして、遅れる。

　間に合わない。

　もうそろそろ、覚えようよ。急ぐ時の、

　「急ぎ方」を。


　　　Ｔｈｅ　Ｓｏｎｇ　ｏｆ　Ｗｉｎｄ　（１６９）

　地上では、暫く、パストリア軍が、松明で窪地と周辺を

調べていたが、それ以上何も起こらぬと見て、

立ち去って行くようだった。

　ケルビンは、慎重に気配を探り、潜めた声で、

おもむろに話し出した。

　「間諜が、この泉の存在を教えたと、言っていたが、

　　教えたのは、あなたですね、ご令嬢。」

　「申し訳ありません。私は、イーヴェル・ペトロス。

　　城主イヴェルトは、私の兄です。」

　ケルビンは、なおも慎重に言葉を選んでいる。

　一旦、姿を隠したとはいえ、黒い霧は、この窪地の

何処かにまだその身を、潜めているのだ。

　「私は、夕刻に、この近辺を調査していて、何者かに、

　　この窪地に、突き落とされてしまった。

　　その時、はずみで、あやつの結界に落ち込み、

　　脱出できなくなくなり、どうにか出ようと、精査を

　　繰り返していたところだった。

　　そこへ、あなたが来たのだ。

　　先ほどの言葉によると・・・」

　ケルビンは、ちらっと、突き崩した積み木のような、

散らかった石材の向こうに、目を走らせた。

　「この城に、ラゥオールフィアの三王女を、

　　匿っていると言うことだったが、

　　なぜ、そんな危険な事を？誰の指図で？」

　イーヴェルの双眸に涙があふれた。この数ヶ月、

まだ幼いとも言えるその身に、圧し掛かっていた重責を、

初めて言葉にする事が、許されたのだ。

涙は際限なくこぼれ落ちたが、しっかりとした言葉で、

イーヴェルは話し始めた。

　「初夏の頃、突然、城が物凄い地響きを立てて、

　　揺れ動いたのです。最初は、地震かと思いましたが、

　　ディーレンでは、何も起こらなかったと言うのです。

　　これは、城の地下に、何か起こったと思い、

　　あちこちを調べるうち、この古い石組みの地下道を、

　　見付けたのです。それと、その一角に、ひとかたまりになって、

　　怯え震えておられる、三人の姫様達を。

　　その時のここは、あの黒い霧が満ちて、火を灯しても

　　暗く、自分の足元も、見えないほどでした。

　　ところが、私が入ってきたのに気付くと、御方様は、

　　急に形をなし、・・・と言っても、先ほどの、

　　あの姿になり、私に取り付こうとしたのです。

　　あの時の恐ろしさは、言葉ではとても・・・

　　末姫様が庇って下さらねば、取り付かれ、

　　どうなっていた事か・・・」

　ところが、ルシア姫が身を挺して、イーヴェルを庇うと、

突然、黒い霧は、散り散りに細かく分かれて、飛び散り、

震えながら床を這い回った挙句、やっとの事で元に戻ると、

　「この者共を生かしておけ。死なせるな。」と、言い置き、

泉の方に、立ち去ったと言う。

　急に、三人もの姫御前を預けられ、イーヴェルが、

途方に暮れていると、泉の方から、一人の魔術師が現れ、

城の他の者に気取られぬように、姫達を匿う知恵を、

色々と与えてくれた。

　「石組みの部屋に、母の居間の調度を、一瞬で移し、

　　お住まいに気を配ったり、姫様達をお救いする為に、

　　パストリアと連絡をつけたりは、皆、その魔術師が、

　　御方様の、意向に沿うために、した事なのです。」

　ケルビンは、眉を寄せて聞いていたが、一言だけ、

イーヴェルを遮って訊ねた。

　「その魔術師は、小柄な・・・あなたほどの背丈の、

　　・・・ダトゥーラ・ファーゴと言う奴では？」

　イーヴェルは、首を傾げたが、はっきり答えた。

　「名は、いつも名乗りませんが、小柄な御方です。

　　薄水色の、神官の服を着た・・・」

　「神官の？・・・」

　今度はケルビンが、首を傾げる番だった。

　　　　　　　　　　　　　　　続く

　本当は、次まで一気に行きたかったんですが、イーヴェルの独白が長くて・・・

　無理に切りました。

　それにしても、ファーゴはしぶといですね。あちこちに出没して・・・

　もうすぐ、彼の野望も出てくるけど、・・・まあ、こういう俗物の事だから、

　スペオペファンなら、とっくに分かってる・・・って所ですかね。

　　　　では、また次回今日も、お越し下さって、ありがとうございました。