ぶるんねん文庫

　
　次　あ、そう、次ね。

　いいね。次があって。学生は。

　大人になると、「次」は無くなる。

　だから、臆病になる。失敗が怖い。

　失敗が許されない世界。

　愚娘の知らない世界。

　想像つかないんだろうな。

　いいんだよ。失敗しても。まだ。

　次があるから。って、思っても。

　まだ。　　　　


　　　　Ｔｈｅ　Ｓｏｎｇ　ｏｆ　Ｗｉｎｄ　（１６７）

　星明りを映す水面に、黒い霧の塊が、漂い浮かぶ。

　それに向かい、イーヴェルは、必死に呼びかけ続けた。

　「『南国の姫様達を、この城に暫くお匿いせよ。

　　　今に、同盟国である、パストリアの軍隊が攻め寄せ、

　　　姫様達を探し出し、連れ戻すであろうから、その時こそ、

　　　この地に残る、森の民の最後の一族に、罪を着せ、

　　　脅されて、やむなくした事と書き置き、望み通り、

　　　城と共に滅びよ。どの道、兄は戻るまいから。』

　　と、仰ったのは、御方様では、ありませんか。

　　それなのに、兄は、戻って参りました。これでは、

　　兄が森の民と結託して、姫様達を誘拐した様では、

　　ありませんか！しかも既に、パストリア軍は、ここまで、

　　来ていると言う時に！！」

　その声を聞いて、では無かろうが、突然ロープの付いた

バケツが、上から投げ込まれた。バケツが水面に落ち、

水を汲み上げると、ロープはするすると手繰られる。

　イーヴェルは暫し黙った。人の足音が、遠ざかって行く。

　樹海に潜んで、機を待つパストリア軍が、水を汲みに、

　来たのだろう。近づく足音に気付かなかったのは、

　イーヴェルが必死に、話し続けていたからに違いない。

　水面が波立ち、黒い霧も、それにつれて暫く揺れていたが、

波が収まると、俄かにその様子が一変した。

　ざわざわと、横に縦に伸び広がり、輪郭の無いまま、

ぼこぼこと、いくつもの瘤を、生じさせてゆく。

　「やはり、な。

　　大方の『人』と言うものは、中々、ものをわからぬ。

　　話とやらをするも、まだるい。

　　そなたを取り込めた方が、早う済む。」

　それが、黒い霧の声だった。

　口と言う器官ではない、何かから発せられる、

風の吹き荒ぶ様な、水が砂地を洗う様な、異様な、

くぐもった、掠れた音のような言葉の響く間に、

無数の霧の瘤が、イーヴェルの立つ砂地に、上陸してきた。

　「・・・いや・・・やめて・・・」

　イーヴェルは、恐怖に立ち竦んだ。

　霧の瘤は、砂地に上がると、丁度、歩き初めの

人の赤子の様な形となり、よちよちと、だが、その数、

計り知れず、わさわさと、イーベルの足元に押し寄せる。

　二度三度と、イーヴェルは手を振り、それを払い落とした。

　が、数として敵わぬ事が、恐怖となり、身を凍らせる。

　霧の赤子はついに、イーヴェルの頭部に取り付き、途端に、

それは形を崩し、目鼻問わず、嫌悪さに叫ぼうとする

口からまでも、身体に入り込もうとする。

　突然、青い火花が顔面を襲った。イーヴェルは衝撃に倒れた。

　が、黒い霧の赤子どもは、かえって、ざわりと後ずさる。

　ボッ、と、青い小炎が十個ほど、宙に燃え上がった。

　イーヴェルは、小炎の中心に立つ人物に、驚いた。

　やや汚れの目立つ、青紫の魔術師のローブを着た、

それは、闇の魔人、ケルビン・ナルキサスだった。

　　　　　　　　　　　　　　　続く

　ええっと・・・

　時間的には、ジャドゥビス、セヴィリス、オリザ姫、シシィ、ユリシアの５人（？4人かも）が

　城下町ディーレンに着く、3日前です。

　この、時間的前後が、何を意味するか。・・・ですよね。

　・・・ここも、戦争の兆しがあるし・・・っていうことで・・・

　　　　ではまた、次回。今日もお越し下さって、ありがとうございました。