2011年10月16日

曼珠沙華の道

曼珠沙華の道   iconN06音符iconN07音符iconN06
 
 ごんしゃん、ごんしゃん

 どこへゆく

 赤いお墓のひがんばな

 ひがんばな ・・・

 北原白秋の詩が浮かびます。

 ここは、お墓じゃなく、

 ただの通り道ですが・・・


   The  Song  of  Wind  (128)

 マヤリス妃の手紙によると、呪いを解く方法は、

離宮の六ヶ所に、法術で隠された護符を探し出し、

それをまとめて焼いた灰を、別の六ヶ所に置く、

と言うものであった。

 マヤリス妃が魔術師ならば、この護符を、取り出すこと自体、

不可能だったのだろう。法術としては、ごく初歩だが、その上に

魔力を弾き返す、あの手紙と、同じ魔法がかけられている。

 セヴィリスに、生来の魔力は無い。長杖から得る力で、

護符を次々、隠し場所から引き剥がす。

 六ヶ所の中心は、大玄関のホール。そこで護符を焼き、

灰を六つに分ける。セヴィリスの手が、焦りに震えた。

 ホールの左を、奥へ入った所が、マヤリス妃の居室である。

 そこに、石と化した重い遺体の入った棺が、放置されている。

 セヴィリスは、その遺体を検めたくて、仕方が無かった。

 その、右手の人差し指の付け根に、セヴィリスの左手を、

鏡に映したようなほくろが、あるのか無いのか・・・

 あの時・・・暴漢に、身体を引き摺られながら、

隠れ場所から、現れそうになったセヴィリスの手に、

必死に、藁を被せて隠そうとした、姉、ヴィオリアの右手。

 目に焼きついて、離れない、悲しく恐しい記憶。

 その右手のほくろが、マヤリス妃に、あるかも知れぬ・・・

 そう思うだけで、身の内が震えてくる。

 だが今、するべきは、この離宮の呪いを解く事。

 セヴィリスにしか、できぬ事だ。狂おしいほどの想いを

押し殺し、灰を、別の六ヶ所に置く。

 合計十二ヶ所のポイントは、壮大なヘキサグラムを、

離宮全体に描き出す。

 セヴィリスは、ホール中央に戻ると、長杖を、

正確にヘキサグラムの中心に立て、念を込めた。

 ・・・大地母神よ、天空神よ、我の力を呼び覚まし給え・・・

 すると、長杖の十二の節は、十二のポイントに、激しく呼応し始めた。

 杖全体が、生き物のように振動する。

 外から見れば、離宮は、稲妻の網ですっぽりと、

包み込まれている様に、見えたのに違いない。

 ただ、離宮は今、ユリシアの霧で覆われている。

 霧は、稲妻のような法術の光を受けて、ボゥっと、

離宮のシルエットを、霧の中に浮かび上がらせた。

 時ならぬ濃霧に、不安がっていた守備兵は、

この怪奇現象に、魂を消し飛ばされ、明かりと

加勢を頼みに、持ち場を離れてしまった。

 「オリザ姫!今やで!早よ行こ!!」

 シシィは、どこで調達したのか、長い梯子を持っており、

それを、守備兵の詰め所の屋根に掛けた。

 そこの上部だけは、反しの棘が無い。

 「早よ!早よ!急いで!!」

 急かされても、なかなかオリザ姫は、梯子を昇れない。

 痺れを切らして、シシィは前庭側に飛び降りた。

 通用のくぐり戸は、内側のかんぬきで閉じてある。

 そこを開け放ち、もたもたしているオリザ姫を、

引っ張り込み、梯子も回収して、中へ滑り込む。

 くぐり戸を閉めるのと、五、六人の兵士が、

松明を掲げて戻るのが、ほぼ同時。まさに間一髪であった。

 軋むかんぬきの代わりに、梯子でくぐり戸を押さえると、

シシィは、オリザ姫を急かして、前庭を突っ切り、

火事の痕のある、建物の左側へ入り込んだ。

 棺のある部屋は、焼け跡に、雨よけの油布を垂らして、

一応、保護されているが、管理が難しくなるとして、

価値のありそうな調度類は、既に運び出されてしまった後。

 焼け焦げの目立つ部屋に、棺だけが、ポツンと残されている。

 稲妻のヘキサグラムは、とうに消え、鼻を抓まれても

分からぬ暗闇である。

 セヴィリスは、棺を検めずに、太陽宮に向かったようだ。

 シシィは、ソルダムのカンテラを灯した。

 「ユリシア、棺を開けるのを手伝って」

 ふわり、と白髪の少女が現れる。

 三人は、力を合わせて、棺の蓋を持ち上げた。

 逝去と言われて、四日が経っているが、遺体は、

石像の様だと言う噂も、流れている。

 あまり、恐怖心は感じられない。

 シシィは、カンテラを掲げて、マヤリス妃の顔の辺りを照らした。

 穏やかな寝顔のようである。しかし、そっと触れた頬は、

死者の硬さを越え、まさしく、石であった。

 そして、目を閉じていても、分かる顔立ちは、

やはり、セヴィリスによく似ている。

 「右手は?ほくろ、ある?」

 萎れかかった花々を掻き分け、胸に組んだ手を照らす。

 その右手の、人差し指の付け根に、ほくろは無かった。

          続く


 kao_16あらら、お姉ちゃんじゃなかったのね。まあ、当然か・・・kao11kao_18kao11

 上の写真、いつのやねんiconN04と、お叱りを受けそうですが、パートと和裁があるし、

アンデルセン童話大賞あるし、続いてJX童話賞あるし、お金できたから、メルヘン雑誌買って、

片っ端からアタックしてみたいし・・・年末、忙しいし、給湯器の具合も悪いし・・・(iconN05

 で、写真が、時々季節外れになります。ごめんなさいiconN04iconN04

 では、また、次回。icon11ハートバスハートicon11今日も、お越し下さって、ありがとうございました。



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Posted by さあちゃん at 00:00│Comments(0)ファンタジー
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