ぶるんねん文庫

　今日のこごまは、ういっしゅ猫です。
　
　娘が、「けいおん」始めちゃって、ベース弾くんだとか・・・

　だから、猫も、ロックンロール


　　　　Ｔｈｅ　　Ｓｏｎｇ　　ｏｆ　　Ｗｉｎｄ　　（７７）

　ユーディス伯爵と共に、国境のペルピテス山脈を越えたのは、

アルナス后とミリカだけであったが、首都水没という、

未曾有の事態に、生きるすべを失って、難民が周辺国へ、

続々流出していた。

　その一部は、確かにルテシアに入り、お目見え適う者は、

アルナス后を、訪ねて来たりした。

　しかし、食客の身となったアルナス后に、彼等を助ける事は、

できなかった。そうと分かると、訪なう者は、途絶えたが、

流れ込む者たちの数は、増える一方だった。

　村や周辺の山には、シドとユーディスの配した、

護衛が移住して来ている。避難民達にとっては、

他のどこへ行くよりも、安心なのだ。

　しかし、困った事に、避難民を装って、

他国の間諜も、多数紛れ込んでいるらしい。

　村人達は、政争に巻き込まれるのを、ひどく恐れていた。

　だからと言って、見知らぬ者を、それだけで、

片っ端から捕まえたり、追い払ったりもできない。

　村人達は、苛立ちを募らせていた。

　ミリカは、子供らしい鋭敏さで、それを感じ取り、

トニーが言わない内は、おばあさまに知らせない方が、

良いのだと、理解している。

　
　シドの一件の翌日、ユーディスが、サフィールの

討議会から戻って来た。彼は、オヴィディオ王の、

行方探索も担っていて、ひどく忙しかった。

　「それでは、オヴィディオは、まだ見つからないのですね。」

　アルナス后は、ため息混じりに、念を押した。

　「ガラノデルム大神殿の、神官達によると、国境を

　　クレーベスタ側へ下ったそうですが、クレーベスタの

　　関所には、陛下らしい人物の、入国記録はありません。

　　かの国は、出入りの制限が、厳しいですから、

　　脇街道にそれたにしても、国境沿いのどこにも、

　　足跡を、残していないのは、どういう訳なのか・・・」

　「一体、この様な時にどこへ・・・」

　二人の会話を、ミリカは身じろぎもせずに、聞いている。

　ミリカにとっては、王様と言う以上に、命の恩人の行方だ。

　トニーも、お茶を運びながら、今日ばかりは、邪険に

子ども扱いせず、一人前にミリカの分も、置いてくれる。

　「それで、大神殿で、あの子は何を・・・」

　ミリカは、自分が居ても良いかどうか、二人の大人の

顔色を窺ったが、会話に途切れは、感じられなかった。

　「ニグ・エウビュコス神殿長によると、国境を守る

　　御霊に詣でた後、神殿長に命じて、宝物倉から、

　　先祖伝来の、宝の大剣を取り出させ、それを帯びて、

　　出られたそうです。神殿長は、必死に止めたそうですが、

　　余りの剣幕に、押し切られたとか・・・」

　「そのような物を、何の為に・・・」

　「さあ・・・宝物としての価値は、かなり高いはずですから、

　　あるいは、もう戻らぬおつもりでの、暴挙かも・・・」

　ユーディスのもたらした情報は、余りに希望の持てぬ、

内容だった。アルナス后は、ハンカチを顔に押し当て、

こみ上げる咽びを、押し殺した。

　一国の王ともあろう者が、盗賊のように、

金の為に、宝物を持ち去ったと言うのは、あまりに、

虚しすぎる言葉であった。

　ミリカは戸棚から、新しいハンカチを取り出して、

おばあさまに差し出し、その背をさすった。

　「おじちゃま、本当に王様は、クレーベスタって

　　言う所に、行ったの？」

　ユーディスは、はっとした。ガラノデルムから、

クレーベスタまで、険しい山地の、無国籍地帯である。

　行き倒れの可能性も考え、山狩りも行ったが、

違う方角へ進んだとは、考えていなかった。

　「・・・クレーベスタ以外・・・このルテシアのどこか、

　　あるいは、聖域に入られたか・・・」

　アルナス后は、泣くのを止め、顔を上げた。

　まだ、すがれる希望があるのだ。

　「探しておくれ。頼みます。

　　私のたった一人の、息子なのですから。」

　ユーディスは、力強くうなずき、帽子を手に立ち上がった。

　　　　　　　続く

　前の方を、よく読んで下さってる方は、

小さなトリックに、お気づきの事と、思います。

　それと、ミリカ・ルーブラ。

　彼女がこんな重要人物とは、登場当時、私も考えなかった。

　娘が、「子供、出さないと、面白くないよ。」と、言うので、

　急遽、おじちゃまとのエピソードとか、作りました。　　　　　　

　今や、外せないキャラクターです。

　　　　　では、また次回。

　　　　　　　　　今日もお越し下さって、ありがとうございました。