ぶるんねん文庫

　７０回記念　

　「風の歌」作中で、シシィの歌う子守唄です。

　ソルダムがうなされてた時の、あの歌です。

　作中に出て来る歌は、全部、ちゃんと曲にする予定です。

　作曲は、もちろん、さあちゃんです。


　　　　Ｔｈｅ　　Ｓｏｎｇ　　ｏｆ　　Ｗｉｎｄ　　（７０）

　「なあ、そんなに根詰めんと、ちょっと休みぃ」

　シシィは、星辰盤を前にして、頭を抱えて、

深いため息をついているセヴィリスに、声を掛けた。

　シシィ達は、ようやく平常に戻ったラゥオール城の、

中殿の一角に、客分とも居候とも言えない、

ひどく中途半端な扱いで、滞在し続けている。

　唯一、まともに扱われているのは、公爵である父親が、

出張ってきた、ジャドゥビス一人である。

　こちらは、間違いなく客人扱いで、連日、下へも置かぬ

もてなし振り。各界の要人との、会合や宴に、明け暮れている。

　オリザ姫は、奥殿に籠もりっきりである。

　水妖魔王は退治され、ラゥオールフィアと

モーズロードン両国の問題は、解決したのだから、

後は、ケルビンとダルトンとで、厄災の原因究明をすれば、

良い筈だった。

　だが、ラゥオールフィア国王の、個人的理由で、

彼等は、引き止められているのだ。

　それは、行方知れずとなった、三人の王妹達の、

探索のためであった。

　彼女等は、三つ首犬に変じて、王宮を荒らし回り、

大灯台跡の地下の石室から、黒い霧の渦と共に、

文字通り、煙のように消えてしまった切りであった。

　しかしケルビン達は、多数の死傷者を出した、

化け犬騒動が、実は、王女達の仕業であったと、

国王に知らせる事が、出来ないでいる。

　王は、がっくりと落ち込んでいた。

　人ならぬ怪異の仕業とはいえ、自分の代で、これほどの国難を、

招いてしまったのだ。己の所業を、恥じずには居れまい。

　落ち込んでいる王に、この上、真実を知らせて、

苦悩に上塗りをして、どうなるというのか。

　どのみち、怪異に連れ去られた事には、間違いない。

　だからケルビンは、ダルトンとも図って、三人の王女達は、

化け犬を中心とした、怪異の集合体に、攫われた事にしたのだ。

　いずれ、自分達の追う、厄災の源にたどり着く時、

化け犬とは、対峙せねばならぬだろうから、ある意味では、

救出の目算も、持ってはいた。

　だが、王の、妹姫たちへの想いは、はた目ほど、

容易いものではなかった。

　出来る限り早く、無事に、三人ともを救い、連れ戻してくれと、

矢のような催促が、引っ切り無しにケルビン達に、

届け付けられる様になった。

　しかし、行方と言っても、何の手懸りも無い。

　ダルトンの法術をもって、王女達の進む方角を、占うのが、

唯一の手懸りらしき物、という状態だ。

　そのダルトンは、というと、ミランと言う格好の通訳を得て、

アルフィーニの所に、詰め切りになっている。

　しわ寄せは、弟子のセヴィリスに、掛かってくる訳だった。

　しかし、シシィは、不満だった。

　セヴィリスは、ほとんど昏睡状態で、城に運び込まれ、

丸二日、寝返りもせぬほど眠り続け、目覚めてからも、

体を動かせるようになるのに、たっぷり一日掛かったのだ。

　それなのに、起き上がれるや否や、この仕打ちである。

　あんまり、人使いが荒すぎると、誰彼なしに意見するのだが、

誰も、取り合ってくれないのだ。

　セヴィリス自身、自分が正体を失って、巨大ふくろうに、

変じていく有様を、思い起こすと、身の毛がよだつ思いがする。

　封じられ、忘れ果てていた苦しみが、全身から、

噴き上がり、己の身に纏いつくのである。

　もし、一点、姉の生存の可能性が、全く無ければ、

自分は、あの水妖魔王のように、この世の物では、

有り得ないものに、変じていただろう。

　ふくろうの姿に、留まったと言う事は、法術師である

自分を、忘れ去りは、しなかったと言う事だ。

　なぜなら、ふくろうは法術師の、象徴であるからだ。

　その点では、三王女も同じである。

　将来への夢を、絶たれた彼女らが、日々墓参りばかりを、

繰り返すうちに、自分達を、冥府の番をする、三つ首犬に

なぞらえてしまったからこそ、あのような変身を

遂げてしまったのだろう。

　だが、ミランに切り付けられて、我が身の変身を、

嘆いたのが本当なら、必ず元の姿に、戻れるはずだと

思われるのだ。だからこそ、セヴィリスは、根を詰めて、

星辰盤を読み続けている。

　オリザ姫への憎悪に、身を焼いて、変わり果てた姿から、

憎しみの殻を脱ぎ捨てて欲しいと、本気で思っているのだ。

　唯、シシィには、そんな深い思いは、わからない。

　シシィは、退屈してしまったのだ。

　ドリスは、オリザ姫に付き添って、奥殿へ行ってしまった。

　長く別住まいだった父親と、これ以上、話たいと思わないし、

一緒に長旅に、付き合ってくれたソルダムは、究極の無口だ。

　せっかくの美しい庭園も、一人で散歩なんて、詰まらない。

　・・・オリザ姫も、ジャドゥビスも、あんまり勝手やわ。

　　王様の気持ちだけは、わかるけど・・・

　　ほんまは、ダルトンがせんならん事を、

　　まだ半病人の、セヴィリスにさせるのも、あかんと思うし・・・

　シシィは、床に錦織のクッションを、敷き散らかして座り、

金襴手のカップのお茶を、がぶ飲みしながら、ぶつぶつと

一人、愚痴をこぼした。

　そこへ、国王一家の来室が告げられた。

　　　　　　　　　　続く

　ＪＸ童話の花束。応募、終わりました。

　・・・・・と、言っていいかどうか。

　今回は、ひどかった。４本下書きして、１本しか出せないって、

　こんな事、近年無かった。唯一出したのは、この作品関連の、　　

　アレ！！

　「小ねずみチュチュパの大冒険」

　もう、しょうがないから、これ（風の歌）終わったら、ここにＵＰしますね。

　他の３つも・・・ま、来年用に取っとくのもありだけど・・・

　ＴＯＰの楽譜は、・・・ここに音符入れる方法が、わからなかったので、

　手書き写真ＵＰしました。

　自分で歌うには、低いんで、Ｄes dur に、してます。

　書く時は、Ｄes dur って、フラット『♭』５こも書きたくないから、

　Ｃ dur にしました。一般的にも、この方が分かりやすいでしょ？

　　　　では、また、次回　

　　　　　　　　　　　　　　

　　　　　　　今日も、お越し下さって、ありがとうございました