2011年04月24日

たまには、違う順番で



      The  Song  of  Wind  (55)

 ソルダムは、誰にも何も、告げることなく、

国を飛び出して来た事を、激しく悔いていた。

 こんな事になるのだったら、討議会に諮って、

厄災の原因究明の為に、正式に出国するのだった。

 そうすれば、ニグに、これらの件の関連性を、

問う事も出来たし、ケルビンや、ダルトンと引き合わせて、

解決策を探らせる事も、できたのだ。

 しかし、もうニグとも連絡は取れまい。

 ニグが、ソルダムを逃がした事は、他の神官から

漏れているだろう。今、外国から、手紙など届けば、

ニグに、間諜の疑いが、かかる可能性がある。

 国情の乱れている今、世話になった者に、下手な真似は

できない。ソルダムの苦悶は、果てしなかった。


 ダルトンは、ルテシア帝国の大都、ヘリアンタへ連行されて行った。

 表向きは、お雇い学者の御訪朝であったが、長杖は取り上げられ、

見張りは厳しく、途中の宿も馬車も、外から施錠されている。

 偉大な法術家にして、大隠者を迎えるのに、これほど、

礼を欠いた態度もあるまいかと、思われた。

 しかし、やっとヘリアンタの城に入り、ダトゥーラ・ファーゴの

政務所である、中の丸に通されると、突然状況は、

緩やかな風に、変わったようだった。

 傍付きの女達が配され、無骨な兵士共は、姿を消した。

鍵も掛けられず、控えの間は、いたせりつくせりである。

 杖も返された。が、ダルトンは、ますます顔をしかめた。

 常人には、警戒を解かれたように見えるが、

それまでに比べて、すさまじい強さの結界が、十重二十重に

張り巡らされているからこその、緩さなのだ。

 これでは、迂闊に用足しもできぬ。それほど、全てが

ファーゴ参謀長に、筒抜けになるよう仕組まれている。

 程なく呼び出され、小部屋ながら、豪華な設えの会見場に、

参謀長とまみえたダルトンは、絹張りの椅子に埋まった、

小男を見下ろし、気安げに話しかけた。

 「久しぶりじゃの、ダトゥール」

 「ファーゴ参謀長と、お呼び頂きたい。」

 「さあて難しいのう。弟弟子を、敬称つきで呼ぶのかな。」

 「今ここでは、あなたの生殺奪与は、私の胸先三寸に掛かっている。

  お口に、気をつけられたが良いぞ。」

 「おまえが、ペイペイの新弟子で来た頃、わしは、一番弟子で、

  師匠の代講を、引き受けていたものじゃ。

  決して物分りの良い弟子では、無かったようだが、の。」

 ざぁっと、ファーゴの顔に、血の色が昇った。額に癇筋が浮き、

肘掛に置いた手が、震えた。ダルトンは、面白そうに

それを見下ろしている。

 「早う、用件を済ましてくれぬか。わしは忙しい。

  南と北で、いっぺんに事案が起こった。

  人間が、わざわざ引き起こした件に、首を突っ込む暇はない。

  事に、お前が起こした件の、尻拭いなど、真っ平じゃ。

  そうでない所だけ、掻い摘んで、手短かに言うが良い。

  何をして欲しいのじゃ。」

 ファーゴの血の色は、治まっていた。声色も落ち着いている。

 「手短か、には、いきません。どうか、私の右腕となって、

  この国に、お留まり頂きたい。必要とあらば、師礼も取りましょう。

  どうか、枉げてご承諾頂きたい。」

 ダルトンは、心外な申し出に、眉を上げた。

 「ルテシアに住めと、?」

 「そういうことになりますね。」

 「それは、できぬ。」

 ダルトンの応えは、にべもなかった。

 「何故です」

 「今、言うた通りじゃ。わしは、お前の尻拭いはせぬ。

  十二年前、我が身のした事を、顧みてみよ。

  それが答えじゃ。幾年離れても、故郷とは懐かしき物。

  それを、悉く打ち壊しておきながら、その口で、

  わしに何を命じようとてか。

  己が始めた戦じゃ。己の手で収めよ。

  わしは、お前が絶ちこぼした命、一つ拾うて育てておる。

  それで、一点貸してるくらいじゃ。それ以上は、

  手も足も貸さぬ。分かったら、わしを城から出せ。

  髭一本損ねずに、な!!」

 ファーゴの左手の中で、長杖ががたがたと震えた。

 これほどの抵抗に会うとは、予想していなかったのだろう。

 相対するダルトンは、平然としている。

 セヴィリスには、教えるべきことは、全て教えた。

 唯、実践的にあやまたず、術を使い切れるようには、

してやる間がなかった。術に頼って、行動させる事は、

心の奥深く、封じた感情を、呼び覚ます恐れがあり、

ダルトンは、その、余りに深い憎悪の念の、爆発を恐れていた。

 だが、仲間と共に行動するうちに、それらを制御するすべも、

覚えるだろう。強大な魔術師、ケルビンも付いている。

 何をも、恐れることの無い、ダルトンを、うべなわせることは、

今のファーゴには、出来そうになかった。

 「よろしいでしょう。お帰り下さい。国境までは、送らせます。

  後に、協力を惜しんだことを、後悔なさる日が、

  来るかも知れませんが、ね」

 「有り得ぬのう」

 心底、うれしそうに、ダルトンは言った。

 その日のうちに、城を出たダルトンの姿は、しかし、

兵士に守らせた馬車のところには、現れなかった。

 白い髭の老人は、余裕綽々として、彩雲を呼び寄せ、

空高くを、飛び去っていった。恐れていた感情の爆発が、

起こりそうな予感があった。

 
 セヴィリスは、長い夢を見ていた。

 故郷の、懐かしい、しかし、貧しい農村の風景が、そこにあった。

          続く


たまには、違う順番で
 3月初めに実家で貰って来た鉢植え。

 ばかでっかい鉢で、何くれんねんiconN06と思ったら

 あらら、綺麗な花。iconN10kao_16iconN10

 重かったけど、そのかいは、ありました。icon22kao_22 

          iconN12 iconN12 iconN12

     今日も、お越し下さって、ありがとうございました。

 










  

 




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Posted by さあちゃん at 00:00│Comments(0)ファンタジー
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