ぶるんねん文庫

　黄色のチューリップは、早くも散り始め、

今は、白が見ごろ。そして、赤が膨らんで・・・

　中々歌のようには、いきません。


　　　　　Ｔｈｅ　　Ｓｏｎｇ　　ｏｆ　　Ｗｉｎｄ　　（５２）

　『真白き三日月』から流れ出た川は、下流に向かって、

次々に分岐し、大きなデルタ地帯を形成している。

　目指すパティラは、パストリア王国、最南端の港町。

　デルタ地帯の東の端に、位置する。

　ダルトンの船には、パティラに向かう魔法は、掛けられていないが、

川船に慣れたソルダムとミランが、交代で棹を取り、

間違いなく分岐点ごとに、東へ東へと舳先を進める。

　それでも、普通の船と変わらぬ速度では、パティラまで

流れを下る事、約二日。

　ジャドゥビスの苛立ちは、爆発寸前であった。

　ルテシア軍に、大都ヘリアンタへ連れ去られた、

ダルトンも、気に掛かる所だったが、ファーゴ参謀長とやらが、

会見を申し入れていただけなら、いきなり酷い扱いは

せぬだろうと、思われた。

　それより気がかりは、やはり本国の出方である。

　サイカスに帰港したカインが、ノビリアの王宮へ着くころだ。

　戦になる、と言う確証があるわけではない。

　しかし、婚姻や同盟などを、いくら結ぼうとも、互いの国情を

虎視眈々と狙いあい、隙あらば相手を取り込めようと、
　
隠れて爪を研ぎ合っていることは、どの国も、違いないのだ。

　　このような、隣国の混乱期を、逃す施政者はいるまい。

　ジャドゥビスは、旅の主導権が、すっかりソルダム達の方に、

移ってしまっているのに、最早、癇を立てる余裕もなくしていた。

　
　船は、二昼夜を待たず、翌々日の日暮れに、パティラに到着した。

　ここからの海路は、船便も多く、漁師や水運の船を、雇う事もできる。

　オリザ姫の国は、青い波濤の向こうに、くっきりと見えている。

　それを、見やるオリザ姫の目に、涙があふれた。

　「手を伸ばせば、届きそうなのに・・・」

　広がる夕闇に、黒々とした島影が、水平線に浮かぶ。

　その背後から、遥か天空へ、星々が生み出されるように昇り、

弧を描いて駆け上がってゆく。

　深々と夜が更けてなお、オリザ姫はその光景を、飽かず眺め続け、

港にたたずみ続けたのだった。
　
　
　セヴィリスは、真っ暗な崩れかかった石室を、用心しながら、

少しずつ登っていった。頭を打っているせいか、空中浮遊が、

充分に出来なくなっている。背丈の半分ほどしか、浮かないのだ。

　それでも、長杖の明かりと、行く手の気配を読む力は、

まだ確かで、蝸牛の歩みほどの速度にせよ、四、五階層は、

登っただろうか。突然行く手が、白く輝いた。

　「夜明け？」

　確かに、日の光だった。しかし、今、夜が明けたのではなかった。

　夜は、とっくに明けていたのだ。

　セヴィリスの方が、日光の届くところに、出てきたのである。

　そして、そこはこれまでと、全く違う建築様式の空間だった。

　白い石で四方の壁も、床も天井も、張り巡らせた、真っ白な

広大な広間。天井近くに、明り取りの、窓が連なっているが、

透き通った水晶板が、嵌め込まれているらしく、

外気が入ってくる気配はない。

　それどころか、水晶板の外側に、大気や風ではない物の

流れが感じられ、セヴィリスを、ぞっとさせた。

　「水中？」

　「ソウダヨ」

　確かに、そう判別できる声が聞こえた。しかし、明らかに

人の声ではなかった。その声の主は、広間の中央の、

巨大な、普通の人間の為に、作られたとは思えぬ大きさの

玉座に、すっぽりと収まっていた。

　純白の部屋の、純白の玉座に、収まって嘯いているのは、

真っ黒い、半ば透けた体を、不気味にうごめく、青い斑に覆わせた、

水妖魔王、ペンテウス・デ・フォーンの、死霊だった。

　　　　　　　　　　続く

　“Monster”再度登場！！！

　セヴィくん！おまたせ。

　しかし、落っこちた弾みで、まさか、北国の湖底へ、テレポテーション？

　いやいや、そんな無茶苦茶を、前半からしません。

　（・・・てことは、後半は、する？）　　

　いよいよ、第２バトルシーン、開幕！

　・・・苦手なんだけど・・・がんばります

　　　　では、また、次回。　　　　　

　　　　　　　　今日も、お越し下さって、ありがとうございました。