ぶるんねん文庫

　２本どりで、頂点をすくい縫いした糸を、

ぎゅう～っと、引き絞ります。

　絞った所で、玉結びをしちゃうと、

どうしても、切れ目が開いちゃいますから、

出発点を、もう一度通って、花びら一枚分向こうまで、

行ってから、結んで下さい。

　糸は、一周＋花弁一枚分、回るわけです。

　これで、切れ目なしの丸い花になります。



　　　　　Ｔｈｅ　　Ｓｏｎｇ　　ｏｆ　　Ｗｉｎｄ　　（１４）

　［さて、何から話せば良いかな？」

　ダルトンが、席に着くなり口火を切った。

　「夜半もとうに回っておる。手短に行こう。
　　
　　こちらにおられる、オリザ・アンジェリカ王女の

　　ラゥオール城に起こっている、異変について・・・」

　「ちょっと待ってくれ。私には、分からないことだらけだ。」

　ジャドゥビスが遮った。

　「まず、あの魔人、何者か。貴殿は先ほど、自己紹介されたが、

　　あの者は、まだ一切自分の事を明かしていない。

　　場合によっては、高貴な姫君との同席、断らねばならぬ。

　　それに、あのドラゴン。貴殿のものだとすると、なぜ、魔人が
　　
　　王女誘拐に使ったのか。それに・・・」

　「せっかちじゃの。無理ないが・・・アルフィーニについては、

　　セヴィリス、お前の責任じゃな。」

　「申し訳ありません。ケルビンに『ドラゴンを手に入れたとの

　　うわさを聞いた、是非見せてくれ』と言われて・・・

　　師匠の言いつけで、手綱も鎖も着けていませんでしたので、

　　隙を見て、乗り逃げされてしまいました。」

　ダルトンは、セヴィリスの言葉に、顔をしかめた。　

　「また、屁理屈を・・・自分が全面的に悪くはないと、必ず、

　　逃げ道を拵える。頭が良すぎる弟子は、使い難いぞ。」

　ジャドゥビスは、セヴィリスを見たが、一点も悪びれず、

淡々としている。大事件の、一大原因を作ったのに、だ。

　「それと、ケルビンのことだったな。」

　ケルビンは、一番テーブルの端の席にいたが、

フン、とそっぽを向き、自分から話し出そうとはしない。

　「あ奴は、魔法名をケルビン・ナルキサスという、魔術師で、

　　我らの中では、闇の魔人と呼ばれておる。

　　その割には世俗的で、コパロスに妻子を置いて・・・」

　ガタッ、と椅子を倒す勢いで、オリザ姫が立ち上がった。

　顔面は蒼白、口元に当てたこぶしが、がたがたと震えている。

　ドリスが、元通り座らせたが、余りのショックに、声も無い。

　ケルビンが、これ以上ダルトンに喋らせると、不利になる、

と、悟って、やっと自分で話し始めた。　

　「まず、私は姫に、謝らねばならない。私は、嘘をついた。

　　私は、ルテシアの騎士団長などではない。一介の魔術師だ。

　　この二年ほどの間に、余りに多くの、怪奇、異常、災いが

　　続けざまに起こるのを、防ぐ手立ては無いかと探り、

　　調査した結果、根本原因が、ラゥオールフィア王国に

　　ある事を突き止めた。が、怪異の大もとが、なかなか、

　　尻尾を出さぬ。いや、出せぬのだ。なぜか。

　　オリザ姫の潜在能力が強すぎて、出て来れぬのだ。

　　しかし、城内の人心は、次第に人となりを失いつつある。

　　姫は悩み、わたしはそれに乗じて、姫を連れ出した。

　　これで、怪異の本体が現れれば、一網打尽にできよう。

　　というのが、当初の目論見だったが・・・とんだ藪蛇だ。」

　藪蛇と言われても、ジャドゥビスは、見過ごせぬものを

見てしまったのだ。ほかに仕様はなかったはずだ。

　「魔術師の悪い癖じゃ。独りよがりで、法に従わぬ。

　　そなた、一人で怪異に立ち向かえると思うてか？」

　いつしか、会話はダルトンとケルビンの物だけになっている。

　　　　　　　　続く　

　中途半端なところで切って、すみません。

　この会話、もうちょっと続くので、ひとまず切ります。

　妻子持ちの、単身赴任魔術師・・・
　
　この人も、動くと、ストーリーひっくり返すタイプですね。

　それも、トリッキーな人物だから、困ったもんです。

　　では、また次回。　　　　　

　　　　　今日も、お読み下さって、ありがとうございました。