2010年12月11日

最終回!

iconN07日の出もう一回、夕焼けの写真tenki_2

最終回!

まさしく、蛍光オレンジです。

六月始め頃らしいです。
日の出


         
           碧氷窟の双生児    (34)


 湖の氷は、岸に沿った部分だけで、

沖の方は、いつも通り、荷運びの船が

行き交っている。それでも、刑場の付近は、

かなり、広く厚く凍っているらしく、

野次馬共が大勢、湖上側の、いつもと違う方向から、

この処刑を見物しようと、氷の上に、居並んでいる。

それを、危険だといって、見張りの兵士が、

押し返そうとしては、民衆と口論になっている。


 しばらくこの光景に、見入っていたジルは、

執行人に、視界をさえぎられて、我に返った。

目の前に縄の輪があった。ジルは、ほんの一瞬だけ、

それを見た。一瞬だけだった。それを認めた、次の瞬間に、

ジルは、見えるものを恐れて、堅く目を閉じてしまった。

 生臭い、幾多の囚人の、血と汗の染みた縄の、

すえた臭いが、正面から迫って来る。

ささくれた縄目が、頬を刺す。

視界を閉ざしたジルの耳に、サフィールの、

泣き声だけが、聞こえ続けていた。


 そのとき、野次馬の中から、怒号が上がった。

 「牛盗人は、てめえじゃねえか!!」

 わあっと、人垣が崩れる音がした。

 ジルは、騒ぎの方を振り返った。

騒ぎは、処刑台の、斜め後ろで起こっていた。

牛に引かせた、荷車の上に登って、見物していた男を、

別の男が、引き摺り下ろそうとしている。

さらに何人かが、加勢して飛び掛るのが見えた。

 執行人も、兵士達も、唖然としている。

 やがて、人垣は輪形になり、真ん中に、

一人の男が、数人の男等に、取り押さえられていた。

 「この、本物の盗人め。図々しくも、盗んだ牛に

  荷車引かせて、縛り首見物とは、とんだ洒落もんだ!」

 ジルたちの処刑を、見届けに来ていた、役人が、

急いで、男達の前に出て行った。

 「その方、名は」

 「ヘズと同じ村の、ドニってもんです。こいつは、

  川向こうの、集落に住む、ヤンっていいます。」

 「この牛が、盗まれたうちの一頭か」

 「間違いありません。俺は、ヘズのところに、時々、

  手伝いに行きます。この牛が生まれたときも、

  耳に切り印を入れるのに、行きました。

  この牛の印は、俺が入れたもんです。」

 「しかと、間違いないか」

 「絶対間違ってません。それに、この牛の右前足の

  付け根には、白い三ツ星があります。お確かめください」

 兵士が、牛の前足を持ち上げると、白い斑が三つ現れた。

 「その方が、真犯人か」

 「俺は、知らん」

 ヤンは、ふてぶてしく、地面に座り込んだ。

 「じっくりと、尋ねねばならんようだな。引っ立てよ。」 

 役人は、ジルとサフィールのことを忘れて、

役所に戻っていった。兵士らがヤンを連行して、後に続く。


 処刑台の周りは、野次馬が、散り始めた。

 執行人の長が、ふたりに言い渡した。

 「罪は晴れた。お前たちを放免する。」

 サフィールがまろびながら、ジルに抱きついてきた。

 「どうして・・・どうして、こんなことになったの?

  どうして、こんな目にあわされるの?」

 「どうしてかわからないけど、もう終わったんだ。

  恐ろしいことは、もう起こらないんだ」

 サフィールは、泣きじゃくった。その肩の動きに、

ジルは、生きている実感を、持てる気がした。

 「終わったから、もう、帰れるんだ。

  隠れ里へ、僕らの家へ帰ろう」

 とたんに、サフィールが、ジルの体を、突き放した。

 「違う!あたしの帰りたいのは、あそこじゃない!!」

叫ぶや否や、サフィールは湖の氷上に、走り出た。

 「サフィール!だめだ、そこは帰り道じゃない!!」

 寒くとも、晴れた昼間、氷は一気に溶け出していた。

 その上を、サフィールは走ってゆく。

サフィールの足の下で、巨大な氷塊が傾いた。

氷塊は、湖底の水を浅所に掻き揚げ、

一瞬の後、すさまじい水蒸気爆発が起こった。

水圧から放たれた熱水が、一気に沸騰したのだ。

 「サフィール!!!」

 ジルの悲痛な叫びを、最期にサフィールは、耳にしただろうか。

 蒸気と熱水を浴びたサフィールは、その刹那、

きらきらと輝く雫となって、冬の陽光に消えていった。


 湖岸に、立ち尽くしたジルに、通り過ぎざま、言葉をかけたものがある。

 「馬鹿な娘だ。せっかく放免になったのに、身投げするとは・・・」

それをジルが、どのように聞いたかは、だれにもわからない。


 その後、ジルの消息は、完全にとだえ、知る者はない。


        * * * * *


 およそ千年の後、ノーザンハイランドで、宝石と貴金属の

鉱脈が発見され、それを基に、バルツァード王国が建ちあがる。

 初代王は、この不凍湖を、サフィールと名付けた。


                  終わり


 
        ダイヤiconN08icon12ハートicon12ダイヤicon12ハートicon12iconN08ダイヤ


 長くてすみませんkao_6icon10クライマックスで、切るところがはさみなかったんです。

 最後までおつきあい下さって、ありがとうございました
iconN32m( _ _ )miconN30 

 







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Posted by さあちゃん at 00:30│Comments(0)ファンタジー
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