ぶるんねん文庫

小さなごちそう　　




　　　想い草と飛び花　　（３）



　想い草たちの大移動が始まった。

野喰いは、高地が苦手だった。それを知る生き物たちは、

持てる力のすべてを振り絞って、少しでも高所をめざした。

ひれ鳥たちは岩陰の巣に、卵も雛も残して、

あてどない旅に出た。

　しかし、飛び花たちは動くことができない。

親株には移動能力は無い。昼間は自在に飛び回っている紅い花たちは、

夜には莢に戻って、養分と水分を親株と交換しなければならない。

　ルーニーは、今いる低地にのこるしかない。

　ノーグは、ルーニーの親株の傍らから動かなかった。

仲間の誰が何と説得してもだめだった。


　ある夜明け前、本当に野喰いの大群がおそってきた。

すべての逃げ得るものは逃げ、飛び花たちも、

本能的に次々と宙に舞い上がった。

ノーグは身を挺して、ルーニーを親株ごと守る気でいたが、

ルーニーは莢から飛び立ってしまった。その時、野喰いの触手の一本が、

ルーニーめがけて伸び上がった。

　ノーグは全身の繊毛を逆立てて飛んだ。
　　
あまりの力に、根はちぎれていた。ルーニーに覆いかぶさり、

地面に伏せ、野喰いの凶暴な食欲から、小さな花を守ろうとした。

　
　やがて、ノーグは思考器官を食い切られて死んだ。

ルーニーの親株も枯れた。

　野喰い共は、新たな餌を求めて去り、生き物の姿の消えた地表を

夜明けの光が、金緑色に染め上げた。

　その光に目覚めたのか、穴だらけの想い草の残骸の下から

一体の真紅の飛び花が現れた。ルーニーだった。

　ルーニーは、碧い大気を波立てて飛び、全てを失った大地に向かって

触手を震わせ絶叫を放った。

　それだけだった。

　飛び花の親株の根茎が新たに芽吹くまで、

まだ長い時が必要だった。

　　

娘の宿題

後ろ姿

正真正銘、娘の作品　今はN高校にあります


　　　　ちょっと長くなりましたが、完結しました。
　　　　お付き合いくださった方、
　　　　ありがとうございました。
　　　　次作もよろしくおねがいします。