ぶるんねん文庫

　 絵を描き出すと、止まらない娘。

　文字通りの、無我夢中。

　ちまちま、細かい線を、重ねてたかと思うと、

　べたべた、絵の具を重ねていく。

　母親のさあは、全く、マネージャー。

　衣食住に、お金の出し入れ。

　起きる時間に寝る時間。

　外部との連絡、付け届け。

　この子、私がいなくなったら、

　どうするんだろ


　　　　Ｔｈｅ　Ｓｏｎｇ　ｏｆ　Ｗｉｎｄ　（２８６）

　「シシィは、自分が歌い続けなければ、私が出られなくなると、

　　考えて、一人、あの暗闇に残られたのです。

　　・・・あの、訳の分からない、恐怖の闇の中に。

　　何とかして、早く助け出して差し上げないと・・・」

　だが、テオが吐き出した黒い霧は、トゥモーロスが

現れると同時に、小さく縮こまり、一瞬、陽炎のような

揺らぎを残して、消滅した。

　そして、それ以降、テオは、全く正気に返り、

神官が探っても、最早、怪異の影も、現れなくなっていた。

　「あの民謡に、詠唱のような力が、あるというのか？

　　いつも、祭りの度に、誰もが歌う歌に？

　　今の今まで、あの歌と怪異が、関連あるなどと、

　　想像した事もなかった。」

　ソルダムも、考え込むばかりだ。だが、ユーディスは、

一点、誰も注目しなかった事柄を、思い出した。

　「黒い霧の塊は、現れて暫く、床の上を蠢いておりました。

　　それが、急に動かなくなった途端に、トゥモーロスが

　　現れたのです。あの時、確か将軍は、何か呟いて

　　おられませんでしたか？」

　言われて初めて、ミランは、思い出したようだった。

　「呟いたんじゃなくて、歌ってたんだ。

　　あの詠唱を・・・誰かが、歌ってる気がして、つい一緒に・・・

　　シシィの声が、霧の中から、聞こえていたのかなあ・・・」

　ソルダムは考え、自分なりの結論を導き出した。

　「とにかく、鍵はサフィールの民謡と詠唱。

　　これが、黒い霧を、奇妙な世界との、架け橋に変えるのだ。

　　テオから出現した黒い霧は、消えてしまったが、

　　同じく、黒い霧に取り憑かれている者が、もう一人いる。

　　マチアス・メイガン・・・彼も、ここに囚われている筈だ。」


　急遽、ポルトル村へ、大仰な囚人護送の行列が、出発した。

　ミランとソルダムを中心に、魔術師並みの魔力を持つ、

多数の神官と屈強の兵士の一団が付き従った。

　オリザ姫の力も、セヴィリスの法術も、必要かも知れぬ。

　ユーディスは、囚人の移送と、姫御前の冬旅を秤にかけ、

前者を選んだ。トゥモーロスを、テッセリムへ送る必要もあった。

　テッセリムへは、既にトゥモーロスの要請に応じて、

大量の物資と、交代の神官が、送られていた。

　しかし本人は、より冬の緩やかな地域で、春を待つ気はなく、

一刻も早く、国王とガラノデルム新神殿長の、書付を村人達に

示したく、ポルトル村まで同行し、後は、数人の兵士等に

送って貰う手筈となっていた。

　雪の山道も、整備さえされていれば、数十人で踏み固めて

通ると、吹雪かぬ限り、さしたる難なく通行できる。

　テッセリム側より、多少、道が緩やかなせいもあった。

　
　十分な装備と共に、トゥモーロス一行を送り出すと、

ポルトル村の神殿は、俄かに緊張が増した。

　聖堂の中央に、捕縄のままのマチアス。

　その周囲に、ソルダム、セヴィリス、ミラン、ジャドゥビス、

そして、ケルビンとシシィの代わりに、ドリスとオリザ姫。

　周囲を、神官達に囲ませ、オリザ姫の緊張に満ちた歌声が、

聖堂の高い天井に、反響（こだま）した。

　それを、支えるように、五人の声が、重なった。

　ゆらり、と、マチアスの周りの空気が、揺らいだ。

　　　　　　　　　　　　　　　　続く

　さあも、頑張る。いつか、まるねこちゃんのギャラリーを作ろう。

　まるねこちゃんの、夢の世界を、いっぱい飾ろう。きっと、きっと、作ってあげる。

　　ではまた次回今日もお越し下さって、ありがとうございました。